火山はなぜ噴火するの?
― 炭酸のふたを開けるのと同じです
火山の噴火は「熱でマグマが吹き出す」現象ではありません。押さえつけられていたガスが、圧力から解放されて泡になる現象です。炭酸飲料のふたを開けたときに起きることと、原理はまったく同じ。違いは、中身がどろどろかどうかだけです。
未開封のペットボトルの中身は、見た目はただの液体です。泡は見えません。二酸化炭素は液体に溶け込んでいて、姿が見えないだけです。
ふたを開けると、プシュッと音がして泡が立ちます。中身が変わったわけではありません。変わったのは圧力だけです。押さえつける力がなくなったので、溶けていられなくなったガスが泡になりました。
ここで、もし中身が水ではなくどろどろの糖蜜だったらどうでしょう。泡は上へ抜けられず、中身ごと押し上げられます。勢いよく振ってから開ければ、吹き出します。
これが火山です。ボトルが地面、中身がマグマ、溶けているガスが水と二酸化炭素です。
地下深くは強く押されているので、水も二酸化炭素もマグマに溶け込んだままです。上昇して圧力が下がると、溶けきれなくなって泡になります。
さらさらなら泡は抜け、溶岩が静かに流れます。どろどろなら泡は閉じ込められ、限界で一気に破裂します。
つまり噴火の激しさを決めているのは、温度ではなくマグマの「ねばり気」です。順に見ていきましょう。
ガスは、地下では「見えない」
マグマには、水や二酸化炭素が数パーセント含まれています。ただし地下深くでは、泡としては存在しません。強い圧力で押さえつけられ、マグマの中に溶け込んでいます。
気体が液体に溶ける量は、押される力が強いほど多くなります。炭酸飲料が高い圧力で詰められているのは、そうしないと二酸化炭素が入りきらないからです。
マグマが上昇すると、上に乗っている岩の重さが減っていきます。押す力が減れば、溶けていられる量も減ります。あふれた分が泡になります。
ここから先が急です。泡ができるとマグマ全体が軽くなり、もっと速く上昇します。上昇すればさらに圧力が下がり、もっと泡ができる。止まらない循環に入ります。
ふたが取れて、泡が立つのです。
泡が抜けられるかどうかが、すべてを分ける
ここでマグマのねばり気が決定的になります。ねばり気は、マグマに含まれるある成分の割合で大きく変わります。少ないとさらさら、多いとどろどろです。
泡は上へ抜けていき、圧力がたまりません。噴火は溶岩が流れ出す形になり、赤い川のような光景になります。ハワイの火山がこの型です。
泡が抜けられず、内側から膨らみ続けます。ついにマグマ自体が引き裂かれて破片になり、猛烈な勢いで噴き出します。
Bの「マグマが引き裂かれる」は、噴火のいちばん重要な瞬間です。それまで液体だったものが、一瞬で「細かい破片と高温ガスの混合物」に変わります。この破片が、空へ上がれば火山灰になり、斜面を流れ下れば火砕流になります。
日本の火山の多くは、この中間からどろどろ寄りです。だから日本では、爆発的な噴火に備える必要があります。
火砕流は、高温の火山灰・岩の破片・ガスが一体となって斜面を流れ下る現象です。数百℃に達し、時速100キロメートルを超えることもあるとされています。
見てから走って逃げることは、事実上できません。谷に沿って流れるとは限らず、尾根を越えることもあります。唯一の対策は、火砕流が届く範囲に入らないことです。
だから避難は「起きてから」ではなく、警戒の情報が出た時点で行う必要があります。「まだ大丈夫そう」に見えることが、この災害のいちばん危ないところです。
登る前・住む場所で、できること
- 登る前に、噴火警戒レベルを必ず確認する気象庁が火山ごとに発表しています。レベルが上がっている山には登らない。「せっかく来たから」がいちばん危険です。登山届も出してください。
- 山では、ヘルメットと避難場所を意識する噴石は数十センチの岩が高速で飛んできます。ヘルメットや、避難できる山小屋・退避壕の位置を、登る前に地図で確認しておきます。丈夫な岩陰も候補になります。
- 噴火に気づいたら、すぐ火口から離れ、指示に従う頭を守りながら風上・下山方向へ。灰が降ってきたらマスクとゴーグル(なければタオルと眼鏡)で口と目を守ります。けが人がいれば119番。その後は自治体と気象庁の情報に従ってください。
燃えかすではなく、マグマが砕けてできたガラスと鉱物の破片です。角がとがっていて、次のような性質があります。
- 目と喉を傷つけます。こすらず、水で洗い流してください
- 水に濡れると重くなります。屋根に積もると建物が壊れることがあります
- 機械に入り込みます。車のエンジンや空調が傷みます。航空機は運航できなくなります
- 雨で泥流になります。噴火が収まったあとも、大雨のたびに危険が続きます
灰が積もったら、掃くのではなく水で流す、または濡らしてから集めるのが基本とされています。乾いた灰を舞い上げると吸い込んでしまうからです。
台所で確かめられること(火は使いません)
- 透明なコップを2つ用意し、①水 ②はちみつやシロップを入れる
- それぞれにストローでゆっくり息を吹き込み、泡がどうなるか見る
- 水では泡がすぐ上がって消えます。シロップでは泡が中に残り、ふくらみます
- 次に、炭酸飲料を用意し、ふたを開ける前と後を観察する。開ける前は泡が見えないことを確かめる
- (安全な場所で)少し振ってから開けると、勢いが変わることも確かめられます
水とシロップの違いが、そのままハワイの火山と日本の火山の違いです。同じだけ泡ができても、抜けられるかどうかで結果がまるで変わります。炭酸を振って開けるときは、屋外か流しの上で行ってください。
まとめ
火山が噴火するのは、地下で押さえつけられて溶けていたガスが、上昇して圧力が下がることで泡になるからです。炭酸のふたを開けるのと同じ原理です。そして激しさを決めるのは温度ではなく、泡が抜けられるかどうか――マグマのねばり気です。
噴火の型は、地下で決まっています。
だから山ごとに、備え方が違います。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」「化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「地学」「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(火山学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:火山をめぐる言葉
- マグマ:地下にある、岩石が溶けたもの。地上に流れ出たものを溶岩と呼び分けます。
- 揮発性成分:マグマに溶けている水や二酸化炭素など。本文の「ガス」です。
- 粘性(ねばり気):流れにくさ。マグマでは二酸化ケイ素の割合で大きく変わります。
- 火砕流:高温の火山灰・岩片・ガスが一体となって高速で流れ下る現象。火山災害でもっとも危険とされています。
- 噴火警戒レベル:気象庁が火山ごとに発表する5段階の指標。とるべき行動が対応づけられています。
高校式で確かめる:地下5kmは、炭酸何本ぶんの圧力か
「圧力が下がると泡になる」と本文で書きました。では、地下ではどれくらいの圧力がかかっているのか。ここは計算できます。
圧力 = 密度 × 重力 × 深さ
| 圧力 | 単位は Pa(パスカル) |
| 密度 | 上に乗っている岩の重さ。約 2700 kg/m³ |
| 重力 | 9.8 m/s² |
| 深さ | 単位は m |
プールの底で耳が痛くなるのと同じ話です。上に乗っているものの重さが、そのまま圧力になります。地下では、乗っているのが水ではなく岩なので、けたが変わります。
そして気体が液体に溶ける量は、圧力に比例します(ヘンリーの法則)。圧力が1300倍なら、溶ける量も1300倍。①の答えが、そのままマグマに溶けていられるガスの量を決めます。
| 深さ | 5 km = 5000 m |
| 代入する | 2700 × 9.8 × 5000 = 132300000 Pa |
| 大気圧 | 約 101300 Pa |
| 大気圧の何倍か | 132300000 ÷ 101300 ≒ 1306 倍 |
地下5kmは、大気圧の約1300倍です。炭酸飲料のペットボトルは、中がだいたい2〜3気圧とされています。その500倍ほどの力で押さえつけられていることになります。
だからガスは溶けたままでいられます。泡が見えないのは、ガスが無いからではなく、押さえつけられているからです。
圧力が下がると、気体の体積は反比例して増えます。1300分の1の圧力になれば、体積は1300倍です。
| 地下で泡になった気体 | 0.1 L とする |
| 地表まで上がると | 0.1 × 1300 = 130 L |
コップ半分ほどの気体が、風呂桶ぶんにふくらみます。しかも上昇しながら、途中でどんどん膨らみ続けます。
これが本文で書いた「止まらない循環」の中身です。膨らむ → 軽くなる → 速く上がる → もっと圧力が下がる → もっと膨らむ。途中で止まる理由が、どこにもありません。
※ 実際には温度も変わり、溶け方も単純な比例からずれます。桁をつかむための計算です。
本文で「逃げられません」と書きました。これも数字で確かめられます。
| 火砕流の速さ | 時速 100 km とされることがある |
| 秒速に直す | 100 ÷ 3.6 ≒ 28 m/s |
| 人が全力で走る速さ | 約 8 m/s(100mを12.5秒) |
| 速さの比 | 28 ÷ 8 = 3.5 倍 |
全力疾走の3.5倍で追ってきます。1 km 先に見えたとしても、こちらに届くまで 1000 ÷ 28 ≒ 36 秒。その間に走れるのは 8 × 36 = 288 m ほどです。
見てから逃げるという選択肢は、計算上ありません。だから避難は「起きてから」ではなく、噴火警戒レベルが上がった時点で行うことになります。数字が、行動の順番を決めています。
高校溶ける量は、圧力で決まる
気体が液体に溶ける量は、その気体が押す力に比例します。これをヘンリーの法則といいます。炭酸飲料のふたを開けると泡が出るのは、この法則そのものです。
| マグマに含まれる水 | およそ 数パーセント(種類による) |
| さらさらのマグマ(二酸化ケイ素が少ない) | 約 45〜52%/溶岩が流れる噴火 |
| 中間のマグマ | 約 52〜63%/日本に多い |
| どろどろのマグマ(二酸化ケイ素が多い) | 約 63% 以上/爆発的な噴火 |
| ねばり気の差 | 種類によってけた違い(何万倍にもなります) |
※ 区分の値は代表的な目安です。温度や含水量でも粘性は変わります。
興味深いのは、水が多いとマグマはさらさらになることです。ところが上昇して水が抜けると、急にねばり気が増します。ガスが抜けかけたマグマは、かえって詰まりやすくなるのです。
高校+なぜ二酸化ケイ素が多いとねばるのか
マグマの中では、ケイ素と酸素が結びついた四面体が基本の単位になっています。二酸化ケイ素の割合が高いと、この四面体どうしが酸素を共有してつながり、長い網目を作ります。
網目が発達するほど、流れるには結合を切らねばならず、抵抗が大きくなります。これが「ねばる」の正体です。水が加わるとこの網目が断ち切られるため、粘性が下がります。
そして噴火の決定的な瞬間が破砕です。泡の体積の割合がおよそ7〜8割に達すると、泡と泡の間の膜が保たなくなり、連続した液体だったものが、破片が飛び交う気体の流れへと切り替わります。この切り替わりが起きた瞬間、噴火は爆発的になります。
大学火砕流はなぜ、あれほど速いのか
火砕流の本体は、高温の粒子と気体の混合物です。粒子どうしが直接ぶつかり合うのではなく、あいだの高温ガスが粒子を浮かせた状態で流れます。摩擦がきわめて小さくなり、密度の高い流体が、抵抗をほとんど受けずに斜面を下ることになります。
そのため谷を埋めるだけでなく、勢いによって尾根を越えることもあります。「谷から離れていれば安全」とは言えません。到達範囲の予測には、噴出量と地形を組み合わせた数値計算が使われますが、不確かさが残ります。
また、マグマ溜まりの姿についても理解が更新されました。かつては「地下に液体のマグマが溜まった部屋がある」というイメージでしたが、現在は結晶が多く含まれた、粥のような状態で長く存在し、噴火の直前に温度や圧力の変化で急速に流動化する、という描像が有力になっています。
研究予測は、まだ十分にできません
- 「いつ・どれくらいの規模で」は、まだ当てられません。火山性の地震、山体のふくらみ、ガスの成分変化といった前兆はとらえられます。しかし前兆があっても噴火しないことがあり、規模の予測はさらに困難です。監視はできるが予知はできないというのが現状です。
- 水蒸気噴火は、とくに予測が難しいままです。マグマそのものが上がってこず、地下水が熱せられて起きるタイプの噴火では、前兆が小さく、直前まで変化が現れないことがあります。2014年の御嶽山の噴火は、この難しさを示す出来事となりました。登山者の多い時間帯に起き、多くの犠牲者が出ています。以降、観測の強化と、登山者への情報伝達の改善が進められています。
- 巨大なカルデラ噴火の見通しは、さらに不確かです。非常にまれですが、起きれば広範囲に影響が及びます。過去の噴出物から頻度を推定する研究がありますが、いつ次が起きるかを言える段階にはありません。
- マグマ溜まりの実態も、観測が難しい対象です。地震波や地殻変動から推定していますが、深さ数キロから十数キロにある「粥のような」状態を直接見る手段はなく、モデルには幅があります。
予測ができない以上、備えと、警戒情報が出たときに従うことが、いまも最も確実な対策です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・火山と火成岩/気体の溶解 | マグマのねばり気と噴火の型、炭酸との対比 |
| 高校 | 化学基礎・気体の溶解度(ヘンリーの法則) | 圧力が下がると溶けきれなくなること |
| 高校 | 地学基礎・火成岩と火山活動 | 二酸化ケイ素の割合と噴火の様式 |
| 高校+ | 地学・マグマの物性/化学・ケイ酸塩 | 網目構造と粘性、破砕が起きる条件 |
| 大学 | 火山学・地球物理学 | 火砕流の流動、マグマ溜まりの描像 |
| 研究 | 火山学(未解決) | 噴火予測、水蒸気噴火、カルデラ噴火 |
| ― | 防災教育 | 噴火警戒レベル、退避壕、降灰への対処 |
- 気象庁による噴火警戒レベルおよび火山活動の解説、活火山の監視に関する資料。
- Sparks, R. S. J. et al., Volcanic Plumes および関連の火山学の教科書(発泡・破砕・噴煙の物理)。
- Cashman, K. V., Sparks, R. S. J. & Blundy, J. D., Vertically extensive and unstable magmatic systems, Science 355, 2017(マグマ溜まりの描像の更新)。
- 内閣府および各自治体による、火山災害警戒地域の避難計画と登山者向けの情報。
- 日本火山学会による、火山灰への対処に関する情報。
※ 温度・速度・成分の数値は、火山や噴火ごとに大きく異なります。本記事では一般に引用される目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。火山に関する行動の判断は、気象庁が発表する噴火警戒レベルおよび自治体・消防・警察の指示に従ってください。登山の際は最新の火山情報を確認し、登山届を提出してください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。