なぜ昼間は星が見えないの?
― 星は、消えていません
「星は夜にしか出てこない」と、なんとなく思っていないでしょうか。実は、星は昼間もずっとそこにあり、光もちゃんと届いています。見えなくなっているのは、星が消えたからではなく、空そのものが明るくなりすぎて、星の光がその中に埋もれてしまうからです。空が青い理由と、まったく同じしくみが、ここでも効いています。
晴れた真昼、空を見上げても星はひとつも見えません。ところが同じ場所で、日が沈んで暗くなると、さっきまで何もなかったはずの空に、次々と星が現れます。
ここから、「星は夜になると出てくるもの」というイメージができあがります。日常の感覚としては、自然なことです。
ただし、これは正確ではありません。星は、太陽と同じように、いつも同じ場所で光り続けています。移動しているのでも、消えたり現れたりしているのでもありません。
変わっているのは、星ではなく、星のまわりの空の明るさのほうです。
太陽の光が空気中で散らばり、空全体がぼんやりと光る大きな明かりになっています。この明るさが、星の光をかき消します。
いちばん明るい星でも、太陽の何十億分の1ほどの明るさしかありません。まぶしい明かりの前では、埋もれてしまいます。
「見えない」と「そこに無い」は、まったく別のことです。順に見ていきます。
空が青いのと、星が見えないのは、同じ現象です
別の記事で書いたとおり、昼間の空が青く見えるのは、太陽の光が空気中の分子にぶつかって、あちこちへ散らばっているからです。この「散らばった光」が、空全体を大きな照明のように光らせています。
星の光も、その同じ空を通って、私たちの目に届いています。星の光そのものは、昼だからといって弱くなったり、届かなくなったりはしません。
問題は、その星の光のすぐ後ろに、はるかに明るい「空という照明」が広がっていることです。かすかな光は、明るい背景の前では見分けがつかなくなります。
空という照明が、消えるのです。
暗闇の中でロウソクを見るのと、逆のことが起きています
この関係を、身近な場面に置きかえて考えてみます。真っ暗な部屋では、小さなロウソクの炎でもはっきり見えます。ところが、同じロウソクを明るい昼間の窓辺に置くと、その炎はほとんど目立たなくなります。
ロウソクの明るさそのものは変わっていません。変わったのは、まわりの明るさです。まわりが暗ければ小さな光でも際立ち、まわりが明るければ同じ光がかすんでしまいます。
星と空の関係も、まったく同じです。星は、空という「まわりの明るさ」に対して、常に相対的にしか見えていません。昼間の空はあまりにも明るいので、星のようなかすかな光は、ほぼすべて埋もれてしまいます。
すべての天体が昼間に見えなくなるわけではありません。太陽と月は昼間でも明るく見えますし、条件がよければ金星が昼間に見えることもあります。
これらに共通しているのは、もともとの明るさが、ずばぬけて強いことです。空という明るい背景に対しても、明るさで上回れるものだけが、昼間でも見分けられます。逆にいえば、これは「星が見えない理由」を裏づける実例でもあります。明るさの勝負に勝てるものだけが、昼間の空を突き抜けてくるのです。
望遠鏡を使うと、昼間でも星が見えることがあります
肉眼では無理でも、大きな望遠鏡を使うと、明るい星なら昼間でも観測できることがあります。
望遠鏡は、星の光を集める一方で、見える空の範囲(視野)をせまく絞り込みます。視野をせまくすると、その中に入ってくる「空の明るさ」の総量も減ります。星の光はレンズで集められて強くなり、背景の明るさは絞り込まれて弱くなる。この両方の効果が重なって、明るさの差が縮まり、見分けやすくなります。
つまり望遠鏡は、星を「呼び寄せている」のではなく、星と背景の明るさの勝負を、星に有利な条件へ持っていく道具だと言えます。
自分で確かめられること
- 晴れた昼間、部屋を暗くしてから、小さな懐中電灯(できれば弱めの光)を灯す
- 暗い部屋の中で、光がよく見えることを確認する
- 次に、カーテンを開けて部屋を明るくしたまま、同じ懐中電灯を灯す
- 同じ明るさのはずの光が、急に目立たなくなることを確かめる
- これが、「星の光は変わっていないのに、昼間は見えない」という現象の、身近な再現です
4と5がこの観察の要です。光そのものではなく、まわりの明るさが「見えるかどうか」を決めていることを、自分の目で確かめられます。光を人の目に直接向けないでください。
まとめ
昼間に星が見えないのは、星が消えているからではありません。星の光は昼も夜も変わらず届いていますが、太陽の光が空気中で散らばって空全体を明るく照らしているため、そのかすかな光が埋もれてしまうのです。空が青いことと、星が見えないことは、同じひとつの現象の2つの側面でした。
星は、いつもそこにあります。
見えているかどうかは、まわりの明るさしだいです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「地学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(天文学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:星の明るさをめぐる言葉
- 恒星:太陽のように、自分で光っている星(なぜ光るのかは別の記事で扱っています)。
- 等級:星の明るさを表す数字。小さいほど明るく、値が5つ違うとちょうど100倍の明るさの差になります。
- 散乱:光が空気中の分子などにぶつかって、いろいろな方向へ広がること。空が明るく光って見える理由です。
- コントラスト:明るいものと暗いものの差。差が小さいほど、見分けにくくなります。
高校式で確かめる:太陽は星より、どれだけ明るいのか
星の明るさは、等級という数字で表されます。この数字の使い方を知ると、太陽がどれほど桁違いに明るいかが、計算で見えてきます。
明るさの比 = 100 ^ (等級の差 ÷ 5)
| 明るさの比 | 何倍明るいか |
| 等級の差 | 2つの天体の等級を引き算した値 |
| 100^(…) | 100を、かっこの中の数だけ累乗する |
これは、「等級が5違うと、明るさはちょうど100倍違う」という決まりから作られた式です。等級は数字が小さいほど明るいことを表し、太陽やよく目立つ天体はマイナスの等級になります。
| 太陽の等級 | 約 −26.7 |
| シリウス(夜空でいちばん明るい恒星)の等級 | 約 −1.5 |
| 肉眼で見える、いちばん暗い星の目安 | 約 +6 |
| 等級の差を出す | −1.5 − (−26.7) = 25.2 |
| 5で割る | 25.2 ÷ 5 = 5.04 |
| 100 を 5.04 乗する | 100^5.04 ≒ 1.2 × 10¹⁰ |
| 太陽はシリウスの | 約120億倍 明るい |
120億倍。夜空でいちばん目立つ星でさえ、太陽の前では、光としては存在しないに等しいほどの差があります。この圧倒的な差が、昼間の空の明るさに星の光がまったく太刀打ちできない理由です。
| 金星がもっとも明るいときの等級 | 約 −4.6 |
| 太陽との等級の差 | −4.6 − (−26.7) = 22.1 |
| 5で割る | 22.1 ÷ 5 = 4.42 |
| 100 を 4.42 乗する | 100^4.42 ≒ 6.9 × 10⁸ |
| 太陽は金星の | 約6.9億倍 明るい |
こんどは、金星とシリウスを比べてみます。
| 金星とシリウスの等級の差 | −1.5 − (−4.6) = 3.1 |
| 5で割る | 3.1 ÷ 5 = 0.62 |
| 100 を 0.62 乗する | 100^0.62 ≒ 17.4 |
| 金星はシリウスの | 約17倍 明るい |
金星は、シリウスよりもさらに17倍明るい天体です。太陽との差(約6.9億倍)は、シリウスとの差(約120億倍)に比べればずっと小さくなります。
この「まだ差は大きいが、シリウスよりはましな明るさ」という位置づけが、条件のよい日に、どこを見ればよいか分かっている人だけが、金星を昼間に見つけられることにつながっています。シリウスでは、この方法でもまず見えません。差がありすぎるからです。
※ 実際に昼間に肉眼で天体を見分けられるかどうかは、大気の透明度・見る人の視力・目のまわりの遮光など、多くの条件に左右されます。ここでの計算は、明るさの「けた」をつかむための目安です。
| 等級の差 1 の場合 | 1 ÷ 5 = 0.2 |
| 100 を 0.2 乗すると | 100^0.2 ≒ 2.512 |
| これを計算すると | 2.512 × 2.512 × 2.512 × 2.512 × 2.512 ≒ 100 |
| 1等級の差は | 約2.512倍 |
「2.512」という数は、5回かけ合わせるとちょうど100になる数です。天文学で等級の差を明るさに直すとき、いつもこの数が土台になっています。2等級違えば 2.512×2.512 ≒ 6.3倍、3等級違えば約15.8倍、というように増えていきます。
高校+「見える・見えない」を決める、もうひとつの条件
ここまでは、星と空の明るさの比を見てきました。実際に人の目で見分けられるかどうかには、もうひとつ、対象がどれだけ小さく(点のように)見えるかという条件も関わっています。
星は、はるかに遠くにあるため、肉眼にはほぼ「点」として届きます。点として届く光は、広がりを持たないため、明るい背景に対してとくに埋もれやすいという性質があります。望遠鏡が星の光を集めながら視野を絞るという工夫は、この性質を逆手に取ったものです。
天体観測の世界では、星のような点の明るさ(実視等級)と、空そのものの単位面積あたりの明るさ(背景の明るさ)を分けて扱います。この2つを比べることで、ある星が、その時々の空の条件で見えるかどうかを、より正確に見積もることができます。
大学山の上や宇宙では、話が変わります
空の明るさは、光を散らばらせる空気の量におおむね左右されます。標高の高い場所では、上にある空気の量そのものが少なくなるため、同じ昼間でも、空はやや暗く見えるとされています。
さらに、大気圏の外(宇宙空間)まで出てしまうと、そもそも光を散らばらせる空気がありません。だから宇宙飛行士は、太陽が出ている「昼間」であっても、星がはっきり見える空を観測できるとされています。空が明るいのは、地球に大気があるからこそ起きている現象だということです。
この考え方は、天文台をどこに建てるかという実務にも直結しています。空気が薄く、光害の少ない山の上が観測地として選ばれるのは、背景の明るさを、できるだけ下げるためです。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 昼間の空の明るさを、場所・時刻・大気の状態から精密に予測することは、いまも簡単ではありません。ちりや水蒸気の量、太陽の高さなど多くの要因が絡み合うため、モデルによる見積もりには、なお改良の余地があるとされています。
- 人の目が、明るい背景の中でどこまでかすかな光を検出できるかには、個人差があります。年齢や、目のまわりを暗く保てているかなど、条件によって差が大きく、「これだけ明るさが違えば絶対に見えない」と一律に線を引くのは難しいとされています。
- 都市の明かり(光害)が、夜空にどれだけの影響を与えるかについても、地域ごとの実測と対策の研究が続いています。本来は暗いはずの夜空が、人工の光によって「昼間の空に近い状態」に近づいてしまう場所も増えており、この記事で説明したしくみが、夜にも起こりつつあるとも言えます。
「星が見える・見えない」は、単純そうに見えて、明るさの物理・目の性質・大気の状態が絡み合う話です。身近な問いほど、掘り下げると奥が深いという、このサイトで何度も出会ってきた形が、ここにもありました。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・恒星の性質、光の性質 | 星は昼夜を問わず光っていること |
| 高校 | 地学基礎・恒星の明るさ(等級) | 等級の差から明るさの比を求める計算 |
| 高校+ | 地学・観測の基礎 | 点光源と背景の明るさの違い |
| 大学 | 天文学・大気科学 | 標高と空の明るさ、天文台の立地選定 |
| 研究 | 天文学・環境科学(未解決) | 空の明るさのモデル化、光害の影響 |
| ― | 観察 | コントラストで見え方が変わることの体験 |
- 国立天文台による、恒星の等級および観測の基礎に関する解説資料。
- 日本天文学会による、天体の明るさと見え方に関する一般向け資料。
- Bohren, C. F. & Clothiaux, E. E., Fundamentals of Atmospheric Radiation(大気の散乱と空の明るさに関する専門書)。
- 国際ダークスカイ協会(IDA)による、光害に関する資料。
- 各種天文年鑑による、恒星・惑星の等級データ。
※ 等級の値は、観測条件や資料によって若干の幅があります。本記事では一般に引用される代表的な値を用いました。
※本記事は一般向けの科学解説です。太陽を直接観察することは目に重大な損傷を与える危険があるため、絶対に行わないでください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。