温泉は、なぜ熱いの?
― 地球そのものが、巨大な熱源です
温泉に入ると、体の芯まで温まります。このお湯を沸かしているのは、ガスコンロでも電気ヒーターでもありません。地面の下にある、地球そのものが持つ熱です。ふだん意識することのない「地球の内部が熱い」という事実が、身近な温泉というかたちで顔を出しています。
温泉旅館の案内などで、「源泉温度○○℃」という表示を見たことがあるかもしれません。中には、そのままでは熱すぎて入れないほどの高温のお湯が、地面から絶えず湧き出ている場所もあります。
これだけの熱いお湯が、燃料も電気も使わずに、自然に湧き続けているというのは、考えてみると不思議なことです。
この熱の出どころは、いったいどこにあるのでしょうか。
地下深くへ進むほど、岩石や地層の温度そのものが、少しずつ高くなっていきます。
地中にしみこんだ水が、深いところで熱を受け取り、温まった状態で地表に湧き出すと、温泉になります。
「地球そのものが熱い」という、ふだん意識しない事実を、順番に見ていきます。
地球の内部は、深くなるほど熱くなっています
地下にトンネルや深い鉱山を掘ると、深くなるほど周囲の岩石の温度が上がっていくことが知られています。この、深さとともに温度が上がっていく割合を、地温勾配と呼びます。
地球の内部がこれほど熱い理由は、大きく2つあるとされています。1つは、地球が誕生したときに持っていた熱が、いまも少しずつ抜けきっていないということ。もう1つは、岩石の中にわずかに含まれる放射性物質が、崩壊するときに熱を出し続けているということです。地球は、誕生から46億年たったいまも、内側から温め続けられていると考えられています。
火山の近くでは、熱源がもっと強くなります
ふつうの場所でも地下は深いほど熱くなりますが、火山活動が活発な地域では、事情がさらに違います。地下の比較的浅い場所に、マグマだまりと呼ばれる、溶けた岩石のたまり場があることがあります。マグマは非常に高温のため、その周囲の岩石を、通常よりもずっと強く熱します。
日本は、火山活動が活発な環太平洋火山帯に位置しているため、世界的に見ても、火山や温泉が多い国とされています。日本各地に温泉が豊富にあるのは、火山という強い熱源が、比較的浅い場所にたくさん存在していることと関係しています。
地球そのものが、誕生以来ずっと燃やし続けている「体温」です。
地下水は、熱を受け取って地表に戻ってきます
雨や雪として降った水の一部は、地面にしみこみ、割れ目や隙間の多い岩石の中を、時間をかけて地下深くへ浸透していきます。深いところまで達した水は、まわりの高温の岩石やマグマだまりから、熱を受け取ります。
温められた水は、密度が下がって軽くなるため、まわりの冷たい水に押し上げられるようにして上昇し始めます。そして、地層の割れ目という「通り道」を通って、再び地表に戻ってきます。これが、温泉として私たちの目に見える形で現れる、地下水の循環の最終段階です。
この記事で説明したのは、代表的なしくみです。実際には、火山活動と直接関係のない、地下の深さだけによる熱で温まった温泉(非火山性温泉)も存在するとされています。温泉の成分や温度、湧き出し方は、地域ごとの地質条件によって大きく異なります。
自分で確かめられること
- 近くの温泉、または旅行で行ったことのある温泉の「源泉温度」の表示を思い出す(または調べる)
- その地域が、火山に近いかどうかを、地図や資料で確認してみる
- 火山に近い温泉ほど、源泉温度が高い傾向にあるかどうかを、いくつかの温泉地で比べてみる
火山に近い地域ほど、より浅い場所で高温に達しやすいため、源泉温度が高くなる傾向が見られることがあります。
まとめ
温泉が熱いのは、地球の内部が、深くなるほど高温になっているからです。地下にしみこんだ水は、その熱を受け取って軽くなり、上昇して地表に戻ってきます。とくに火山活動が活発な地域では、地下浅くにあるマグマだまりが強い熱源となり、より高温の温泉が生まれやすくなるとされています。
温泉は、地球からの贈り物というより、地球そのものの体温です。
46億年、冷めきらずにいる熱の証拠です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「地学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球熱学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:温泉をめぐる言葉
- 地温勾配:地下に進むにつれて、温度が上昇していく割合。
- マグマだまり:地下の比較的浅い場所にある、溶けた岩石のたまり場。
- 放射性物質:原子核が壊れる(崩壊する)ときに、エネルギー(熱)を出す物質。
高校式で確かめる:地下水は、どれくらいの深さでどれだけ熱くなるのか
地温勾配を使って、地下水が特定の深さまで達したとき、どれくらいの温度になっているかを計算してみます。
地下の温度 = 地表の温度 + 地温勾配 × 深さ
| 地表の温度 | ここでは、たとえとして15℃とします |
| 地温勾配 | 代表的な目安として、1kmにつきおよそ30℃程度とされています |
| 深さ | 単位はkm |
この値は、火山活動のない、平均的な地域での目安です。火山地帯では、この何倍もの勾配になることがあるとされています。
| 深さ1kmでの温度上昇分 | 30 × 1 = 30 |
| 深さ1kmでの温度 | 15 + 30 = 45 |
| 深さ1kmでの温度 | 約 45℃ |
| 深さ2kmでの温度上昇分 | 30 × 2 = 60 |
| 深さ2kmでの温度 | 15 + 60 = 75 |
| 深さ2kmでの温度 | 約 75℃ |
火山の影響がない、ごく平均的な地温勾配だけでも、深さ1〜2km程度の地下水循環で、多くの温泉に見られる温度が説明できることがわかります。火山地帯では、より浅い深さでも、同じくらいかそれ以上の温度に達すると考えられています。
※ 地温勾配・地表温度は地域によって幅があり、ここでの計算は代表的な目安です。実際の温泉水の温度は、湧出までの経路や地質構造など、他の要因にも左右されます。
高校+地球の熱源は、大きく2種類あります
地球内部の熱の由来は、「始原熱(原始熱)」と「放射性熱」の大きく2つに分けて説明されることがあります。始原熱は、地球が誕生したときの、微惑星の衝突エネルギーなどに由来する熱です。放射性熱は、ウランやトリウム、カリウムなどの放射性同位体が、地球の歴史を通じて崩壊し続けることで生み出されてきた熱です。どちらの熱が、どれくらいの割合を占めるかについては、研究によって見積もりに幅があるとされています。
大学熱水系という考え方
地球科学では、地下水が熱源から熱を受け取り、循環しながら地表に戻ってくる一連のシステムを熱水系(ハイドロサーマルシステム)と呼びます。熱水系の中では、水は単に温められるだけでなく、まわりの岩石からさまざまな鉱物成分を溶かしこみながら上昇するため、温泉ごとに異なる色や匂い、効能につながる成分の違いが生まれると考えられています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 火山地帯の地下深くにある熱水系の、詳しい構造や水の流れる経路は、直接観察することが難しく、地震波や地磁気の観測などを組み合わせた、間接的な調査によって推定が続けられている段階です。
- 熱水系の状態の変化を監視することで、火山の噴火の兆候を早期につかめないかという研究も進められています。温泉や地下水の温度・成分の変化が、火山活動の変化と関係している可能性が指摘されていますが、確実な予測手法の確立には、なお課題があるとされています。
- 火山地帯ではない場所でも、地下の熱を人工的に取り出して発電などに利用する技術(高温岩体発電・EGSなど)の研究開発も進められています。天然の地下水循環に頼らず、人工的に水を送りこんで熱を取り出す方法ですが、実用化にはまだ技術的な課題が残っているとされています。
身近な温泉の裏側には、地球内部の熱という、いまも研究が続く壮大なテーマが広がっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・大地の変化 | 地温勾配・マグマだまりの基本用語 |
| 高校 | 地学基礎・地球の内部構造 | 地温勾配から、地下水の温度を見積もる計算 |
| 高校+ | 地学・地球の熱収支 | 始原熱と放射性熱の内訳 |
| 大学 | 地球熱学・地球化学 | 熱水系のしくみと、温泉成分の由来 |
| 研究 | 火山学・地熱工学(研究中) | 熱水系の監視による噴火予測、高温岩体発電 |
- 気象庁「日本の火山活動」に関する解説資料。
- 地学基礎教科書における、地球内部の熱源と地温勾配に関する解説。
- 環境省「温泉の科学」に関する一般向け解説資料。
- 地球熱学関連の教科書における、熱水系のしくみに関する解説。
- 地熱工学分野における、高温岩体発電(EGS)の研究レビュー。
※ 地温勾配・地表温度などの数値は代表的な目安であり、地域によって大きく異なります。
※本記事は一般向けの科学解説です。温泉の泉質・効能・利用上の注意については、各温泉施設の表示や、環境省など公的機関の情報をご確認ください。火山活動に関する最新情報は、気象庁の発表をご確認ください。