鉄はなぜサビるの?
― アルミがサビないのではなく、一瞬でサビ終わっています
雨ざらしの自転車は赤茶色になります。ところが同じ屋外にあるアルミのサッシや、ステンレスの流し台は、そうなりません。「アルミはサビない金属」だと思われがちですが、逆です。アルミは鉄よりずっと激しくサビます。ただし一瞬でサビ終わり、そのサビが中身を守る。この違いだけで、身のまわりの金属の使い分けがほぼ説明できます。
使わなくなった自転車、庭に置いた工具、雨に濡れた釘。鉄でできたものは、放っておくと赤茶色になって、表面がボロボロと落ちていきます。
ところが、同じように雨風にさらされているのに、そうならないものもあります。アルミのサッシ、ステンレスの手すり、10円玉。これらは色が変わることはあっても、ボロボロ崩れていきません。
ふつうは「鉄はサビやすい金属で、アルミやステンレスはサビにくい金属だ」と説明されます。ところが、この説明は事実と逆です。
アルミは、鉄よりはるかに激しく酸素と結びつきます。それなのに崩れないのは、まったく別の理由です。
鉄・水・酸素。どれか1つでも無ければ進みません。だから対策は「どれか1つを断つ」ことになります。
鉄のサビはすきまだらけで剥がれ落ち、下の鉄がまた露出します。アルミのサビはすきまなく張りつき、そこで止まります。
つまり「サビるかどうか」ではなく「サビが止まるかどうか」が問題でした。順に見ていきます。
サビとは、金属が「もとの姿」に戻ることです
意外かもしれませんが、金属のかたまりというのは、自然界ではめずらしい状態です。地球にある鉄のほとんどは、酸素と結びついた石(鉄鉱石)として存在しています。
私たちが使う鉄は、その石から大量の熱とエネルギーをかけて、無理やり酸素を引きはがしたものです。つまり鉄は、押し戻されたバネのような状態にあります。
サビるというのは、そのバネが少しずつ戻っているだけです。鉄が酸素と結びついて、石だったころの姿に帰っていく。止められないのは当然で、放っておけば必ず進みます。
だから対策は「サビない金属を探す」ことではありません。「戻る途中で足止めする」ことになります。
サビが止まるようにする。
なぜ鉄だけが、崩れ続けるのか
アルミも酸素と結びつきます。むしろ鉄より激しく結びつきます。それなのに崩れないのは、できたものの形が違うからです。
元の鉄よりずっとかさばり、すきまだらけです。だから浮き上がって剥がれ落ち、下の鉄がまた顔を出します。
できた膜がすきまなく密着します。厚さはごくわずかですが、酸素も水も通しません。そこで止まります。
この膜は、削れてもすぐに作り直されます。アルミを削ると、切ったそばから新しい膜ができます。守っているのは金属そのものではなく、その表面にできた「サビの膜」なのです。
ステンレスも同じ考え方です。鉄にクロムという金属を混ぜてあり、そのクロムが作る膜が守っています。だからステンレスは「サビない鉄」ではなく、「サビが止まる鉄」です。
ステンレスの流し台に、鉄の缶を置きっぱなしにすると、そこだけ赤くなることがあります。これは缶から出たサビがついた(もらいサビ)ことが多いのですが、放置すると本体まで進むことがあります。
また、塩素系の漂白剤を長くつけたままにすると、守っている膜が壊れ、そこから点のようなサビが出ることがあります。使ったらよく洗い流すのが大事とされているのは、このためです。
ステンレスの強みは「絶対サビない」ことではなく、膜が壊れても、酸素があればまた作り直せることにあります。だから汚れやサビを残さず、表面を空気に触れさせておくのが、いちばんの手入れになります。
先に犠牲になって守る、という手もあります
もうひとつ、まったく違う守り方があります。鉄より先に溶ける金属を、上からかぶせておく方法です。
トタン屋根やガードレールの表面は、亜鉛でおおわれています。亜鉛は鉄より先に溶けるので、雨に濡れると亜鉛のほうが犠牲になり、鉄は残ります。
おもしろいのは、この方法は傷がついても効くことです。ふつうの塗装なら、剥げたところからサビが始まります。ところが亜鉛の場合は、鉄がむき出しになっても、まわりの亜鉛が先に溶けて守り続けます。
船底や地中の配管には、あえて溶けるための金属の塊を取りつけることがあります。定期的に交換する前提の、消耗品としての金属です。「守る」とは、必ずしも硬くて丈夫であることではないという例だと思います。
- 濡れたら、拭いて乾かす3つのうちいちばん断ちやすいのが水です。自転車を雨のあと拭くだけで、寿命がはっきり変わります。とくにチェーンや可動部は、拭いてから油を差してください。
- 塩がついたら、真水で流す海辺に行ったあとや、雪道を走ったあとの車。塩はサビを大きく加速させます。下回りまで真水で流してください。融雪剤をまく地域では、冬のあいだくり返し必要です。
- サビを見つけたら、落としてから覆う浮いたサビを落とし、乾かしてから塗料や油で覆います。上から塗り重ねるだけでは、下でサビが進み続けます。ボルトや刃物では、サビが強度に関わることもあります。
鉄のサビは、元の鉄よりかさばります。そのためコンクリートの中の鉄筋がサビると、膨らんでコンクリートを内側から割ります。ひび割れから水と酸素がさらに入り、加速していきます。
建物のひび割れからサビの色が出ている、ベランダの手すりの根元がふくらんでいる、足場や脚立の脚が薄くなっている――こうした場所は、見た目より強度が落ちていることがあります。
自分で判断せず、管理者や専門の業者に見てもらってください。とくに人が乗る場所や、落下の危険がある場所では、使用を控えて相談することをおすすめします。
台所でできる観察
- 鉄くぎを4本用意し、透明なコップを4つ並べる
- ①何も入れない(空気だけ) ②水を半分 ③一度沸かして冷ました水で満たし、上から油を薄く注ぐ(空気を遮る) ④塩水を半分
- 3日ほど置いて、見比べる
- ②と④でサビます。とくに④が速いはずです。①は乾いていれば、ほとんど進みません
- ③は水があるのにサビにくくなります。沸かして酸素を減らし、油でふたをしたからです
③がこの観察の要です。水があってもサビないことがある——つまり犯人は水だけではない、と自分で確かめられます。②と④の差は塩の効果です。塩は、それ自体が鉄と反応するのではなく、反応を進みやすくする役目をしています。くぎは手を切らないよう扱いに注意し、終わったら流しに捨てず、水を切って処分してください。
まとめ
鉄がサビるのは、もともと石だった姿へ戻ろうとしているからです。止められませんが、鉄・水・酸素のどれか1つを断てば足止めできます。そしてアルミやステンレスが崩れないのは、サビないからではなくできたサビが、すきまなく張りついて先を止めるからです。
守っているのは金属ではなく、
その表面にできた、ごく薄いサビの膜です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(腐食工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:サビをめぐる言葉
- 酸化:物質が酸素と結びつく変化。サビも、燃焼も、この仲間です。
- 赤サビ:鉄が水と酸素の下でできるサビ。すきまが多く、剥がれます。
- 黒サビ:高温で作られる、すきまの少ないサビ。こちらは鉄を守ります。中華鍋や鉄瓶の手入れは、これを作る作業です。
- 不動態:表面にできた緻密な膜で、内部が守られている状態。アルミやステンレスがこれです。
- 犠牲防食:先に溶ける金属を置いて、守りたい金属を残す方法。トタンがこれです。
高校式で確かめる:サビると、重くなるのか軽くなるのか
サビた鉄はボロボロ落ちるので、「減っていく」印象があります。ところが化学反応式を書くと、逆のことが出てきます。
4Fe + 3O₂ → 2Fe₂O₃
| Fe 鉄 | 1 mol あたり 56 g |
| O₂ 酸素 | 1 mol あたり 32 g |
| Fe₂O₃ 酸化鉄(赤サビ) | 1 mol あたり 160 g |
式の読み方はこうです。鉄が4に対して、酸素が3くっついて、酸化鉄が2できる。実際の赤サビにはさらに水が含まれますが、量の見当をつけるにはこれで足ります。
ここで大事なのは、酸素がどこかへ消えるのではなく、鉄にくっついて残ることです。だから重さは増えます。
| 鉄の側の重さ | 4 × 56 = 224 g |
| 酸素の側の重さ | 3 × 32 = 96 g |
| できる赤サビの重さ | 2 × 160 = 320 g |
| 確かめ算(質量は保存する) | 224 + 96 = 320 |
| 増えた分 | 320 − 224 = 96 g |
| 増えた割合 | (96 ÷ 224) × 100 ≒ 42.9 % |
サビると、重さは約43%増えます。減るのではありません。
では、なぜ減ったように見えるのか。増えた分がその場に留まらず、剥がれ落ちていくからです。「軽くなった」のではなく「重くなったものが、こぼれ落ちている」。見た目と中身が食い違う例です。
重さが43%増えるだけでなく、体積はもっと増えます。赤サビは、もとの鉄の2倍から6倍程度の体積になるとされています。すきまを多く含むためです。
| 厚さ 0.1 mm の鉄がサビたとする | 体積が2倍なら 0.1 × 2 = 0.2 mm |
| まわりを押し広げる量 | 0.2 − 0.1 = 0.1 mm |
| 厚さ 0.5 mm ぶんがサビたら | 0.5 × 2 = 1.0 mm、押し広げる量は 1.0 − 0.5 = 0.5 mm |
たった0.5 mm と思われるかもしれません。ところがコンクリートは、押し広げられる力にとても弱い材料です。この程度でひび割れます。
そしてひび割れると、そこから水と酸素がさらに入ります。サビが進む → ふくらむ → 割れる → もっとサビる。止まる理由がどこにもありません。鉄筋コンクリートの寿命を決めているのが、この繰り返しだとされています。
アルミやステンレスを守っている膜の厚さは、およそ1〜3 nm(ナノメートル)とされています。1 nm は100万分の1 mm です。
| 髪の毛の太さ | 約 0.08 mm = 80000 nm |
| 守っている膜の厚さ | 約 3 nm |
| 髪の毛の何分の1か | 80000 ÷ 3 ≒ 26667 分の1 |
髪の毛の2万分の1以下の膜が、金属を守っています。目にも見えず、指で触ってもわかりません。
これほど薄いのに効くのは、すきまが無いからです。逆にいえば、ごくわずかな傷や汚れでも、そこが弱点になります。ステンレスに点のようなサビが出ることがあるのは、このためです。
「厚くて丈夫だから守れる」のではありません。「すきまが無いから守れる」のです。③で見た赤サビは、2倍から6倍もかさばるのに守れません。厚さと守る力は、別のことでした。
高校+サビている鉄は、小さな電池になっています
サビは、単に酸素がくっつく反応ではありません。電気の流れをともなう反応です。
濡れた鉄の表面では、ある場所で鉄が電子を放して溶け出し、別の場所で酸素がその電子を受け取ります。電子は鉄の中を通って移動します。つまり、1枚の鉄板の上に電池ができていることになります。
ここから、いくつかのことが説明できます。
- 塩水で速くなる理由。塩は電気を運びやすくするので、電池としての流れが増えます。塩そのものは反応しません。
- すきまや傷が集中的にやられる理由。酸素の届きにくい奥が溶ける側になり、一点に集中します。
- 2種類の金属を接触させると片方が早く傷む理由。電池の性質上、溶けやすいほうが一方的に犠牲になります。トタンの犠牲防食は、これを意図的に使ったものです。
逆にブリキ(スズをかぶせた鉄)は、傷がつくと鉄のほうが先に溶けます。スズは鉄より溶けにくいためです。同じ「めっき」でも、亜鉛とスズでは傷がついたときの挙動が正反対になります。
大学どこが溶けるかは、電位とpHで整理できる
金属が溶けるか、膜ができるか、そのまま安定かは、電位と酸性度(pH)の組み合わせでおおよそ整理できます。この関係を図にしたものが使われ、「この条件なら膜ができて守られる」「この条件なら溶ける」という見通しが立てられます。
ただしこの図が示すのは「どちらへ向かうか」であって、「どれくらいの速さか」ではありません。実際の設計では、速さを別に測る必要があります。向きと速さは別の問題だ、というのは腐食に限らず化学でよく出てくる区別です。
実務でとくに問題になるのが孔食です。全体は健全に見えるのに、一点だけが深く進む。平均的な減り方から寿命を見積もると、実際より大幅に長く見積もってしまいます。配管に穴があくのは、たいていこの形です。
研究いつ穴があくかは、いまも当てられません
- 孔食が「どこで」「いつ」始まるかは、確率的にしか扱えていません。膜のどの一点が破れるかは、材料のごく小さなむらに左右されます。平均としての腐食速度は測れても、個々の部材がいつ穴になるかの予測は、いまも難しいとされています。
- 大気中での腐食速度の予測は、変数が多すぎます。濡れている時間、塩分、大気中の汚染物質、温度の上下、日射。これらが絡み合うため、実際の環境ごとに試験片を何年も置いて測るという方法が、いまも使われています。
- 微生物が関わる腐食があります。特定の細菌が関わる場所では、予測を大きく超える速さで進むことが知られています。金属の腐食に生き物が関わるという事実自体、比較的あとになって注目されました。機構の解明は進行中です。
- あえてサビさせて守る鋼材の、サビ層のでき方。橋などに使われる、表面に安定したサビ層を作らせる鋼があります。うまくいけば塗装が要りませんが、塩分の多い場所ではその層が安定せず、条件の見極めが難しいとされています。
サビは、身のまわりでいちばん見慣れた化学変化のひとつです。それでも「この橋はあと何年か」を精密に答えることは、いまもできません。よく知られていることと、正確に予測できることは、別だという例だと思います。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・化学変化と酸化 | サビは酸素と結びつく変化であること |
| 高校 | 化学基礎・化学反応式と量的関係 | 4Fe + 3O₂ → 2Fe₂O₃ からの質量計算 |
| 高校 | 化学基礎・酸化還元 | 電子のやりとりとしてのサビ |
| 高校+ | 化学・電池とイオン化傾向 | 局部電池、犠牲防食、不動態 |
| 大学 | 腐食工学・材料工学 | 電位とpHによる整理、孔食 |
| 研究 | 腐食科学(未解決) | 孔食の予測、微生物腐食、安定サビ層 |
| ― | 生活・保全 | 拭いて乾かす、塩を流す、構造物のサビ |
- 日本材料学会・腐食防食部門委員会による、腐食と防食に関する解説資料。
- Pourbaix, M., Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions(電位とpHによる整理の原典)。
- 土木学会・日本コンクリート工学会による、鉄筋腐食とコンクリートのひび割れに関する指針類。
- Little, B. J. & Lee, J. S., Microbiologically Influenced Corrosion(微生物腐食)。
- 日本鉄鋼連盟による、耐候性鋼材およびめっき鋼板の解説。
※ 膜の厚さ、体積の増加率、腐食の速さは、材料と環境によって大きく変わります。本記事では一般に引用される目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。建物・橋・足場・脚立など、人の安全に関わる構造物のサビについては、自分で判断せず、管理者や専門の業者に相談してください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。