氷に塩をかけると、
なぜ0℃より冷たくなるの?
氷の温度は0℃です。それ以上冷たくはなりません。ところが塩をふりかけるだけで、マイナス20℃近くまで下がります。冷凍庫も電気も使わずに、です。しかもこれは、冬の道路にまく融雪剤とまったく同じ現象です。溶かすための塩が、なぜ冷やすことにも使えるのでしょう。
コップに氷を入れて、温度計を差し込みます。しばらく置くと、温度は0℃で止まります。まわりが暑い日でも、氷が残っているあいだは0℃のままです。
ここに塩をひとつかみ入れて、かき混ぜます。すると温度計の数字が、するすると下がっていきます。マイナス5℃、マイナス10℃。うまくやればマイナス20℃近くまで落ちます。
塩は冷たくありません。台所の常温に置いてあったものです。冷たいものを足したわけでもないのに、全体はより冷たくなりました。
熱はどこへ行ったのでしょうか。答えは「氷が融けることに使われた」です。
塩水は0℃では凍りません。だから塩をかけられた氷は、0℃より低い温度でも融けはじめます。ふつうなら融けない寒さでも、融け続けます。
固体が液体になるには、たくさんの熱が要ります。その熱はまわりから奪われます。融け続ける限り、奪われ続けます。
この2つが組み合わさります。「融ける温度を下げる」ことで「融け続ける状態」を作り、その融解が熱を奪い続ける。だから温度がどんどん下がります。順に見ていきましょう。
そもそも、なぜ氷は0℃で止まるのか
固体が液体に変わるには、大量の熱が必要です。氷を1グラム融かすには、同じ量の水を0℃から80℃近くまで温めるのと同じくらいの熱が要ります。
この熱は、まわりから奪われます。だから氷を入れた飲み物は冷たくなります。氷が「冷たいから」冷えるのではなく、氷が「融けるから」冷えるのです。
ただし、氷が融けられるのは0℃までです。0℃になると、それ以上は融けません。融けなければ熱も奪いません。だから温度は0℃で止まります。0℃という壁は、「もう融けられない」という壁なのです。
塩は、その壁をずらす
塩水は、0℃では凍りません。海の水が真冬でもなかなか凍らないのと同じです。水に何かが溶けていると、凍る温度が下がります。
氷に塩をかけると、氷の表面のわずかな水に塩が溶けて、濃い塩水ができます。この塩水は、0℃どころかマイナス10℃でも液体のままでいられます。
すると、氷から見れば「まだ融けられる」状態が続きます。マイナス5℃でも融ける。マイナス10℃でも融ける。融け続ける限り、熱は奪われ続けます。
こうして温度は下がっていきます。どこまでも下がるわけではなく、塩水がついに凍る温度まで来ると止まります。食塩の場合、その限界はおよそマイナス21℃とされています。
「塩が水に溶けるときに熱を吸収するので冷える」という説明を見かけますが、これは主な理由ではありません。
食塩が水に溶けるときの熱の出入りは、ごくわずかです。マイナス20℃まで下げられるほどの量ではありません。実際に熱を奪っているのは、氷が融けることのほうです。塩の役割は、熱を奪うことではなく、氷が融け続けられる状況を作ることです。
証拠もあります。塩だけを水に入れても、ほとんど冷えません。氷がなければ、この現象は起きないのです。
氷に「融け続けろ」と命じているだけです。
同じ塩が、道路では氷を「溶かす」役をする
ここで疑問が出ます。冬の道路にまく融雪剤も塩です。あちらは氷を溶かすためにまくのに、こちらは冷やすために使う。矛盾しているように見えます。
しかし、起きていることはまったく同じです。塩は「凍る温度を下げる」だけ。あとは、目的の違いです。
気温がマイナス5℃なら、ふつう氷は溶けません。でも塩をまけば、その温度でも溶けるようになります。路面から氷がなくなるので、目的は達成です。
同じことが起きていますが、注目するのは奪われた熱のほうです。融ける過程で周囲が冷えるので、その冷たさを利用します。
つまり「溶かす」と「冷やす」は、同じ現象の別々の側面です。氷が溶けるとき、必ずまわりは冷えています。道路でも、塩をまいた場所の周囲はいったん冷えています。ただ、そちらは誰も気にしないというだけです。
- 寒すぎると効きません。食塩ではマイナス20℃あたりが限界です。それより寒い地域では、より低温まで効く塩化カルシウムなどが使われます。
- 塩化カルシウムは、溶けるときに熱を出します。食塩とは逆で、これも融雪を助けます。
- 溶けた水が、再び凍ることがあります。薄まった塩水が日陰や夜間に再凍結すると、透明で見えにくい氷の膜になります。「塩をまいたから安心」とは限りません。
- 金属や植物への影響があります。車の下回りの腐食、コンクリートの劣化、道路わきの土壌や街路樹への影響が知られています。使う量を必要最小限にする工夫が続けられています。
台所で確かめられること
- 小さめのジッパー袋に、牛乳100 mL・砂糖大さじ1ほどを入れ、空気を抜いてしっかり閉じる
- 大きめのジッパー袋に、氷をたっぷりと、塩を大さじ3〜4入れる
- 小さい袋を大きい袋の中に入れ、大きい袋も閉じる
- タオルで包んで(手が凍傷になるのを防ぐため)、10〜15分ふり続ける
- 中身が固まったら完成。ふる前とふった後で、外側の袋の温度を測ってみると、氷点下まで下がっているのがわかります
冷凍庫を使わずにアイスができます。塩を入れずに同じことをすると、0℃までしか下がらないのでいつまでも固まりません。両方試すと違いがはっきりします。素手で長時間持たないでください(マイナス20℃近くになるため、凍傷の危険があります)。塩水は飲まず、そのまま排水してください。
まとめ
氷に塩をかけると冷たくなるのは、塩が冷たいからでも、塩が熱を吸うからでもありません。塩が「凍る温度」を引き下げることで、本来なら止まるはずの融解を続けさせ、その融解がまわりから熱を奪い続けるからです。
道路の氷を溶かすことと、アイスを冷やすこと。
同じ現象を、反対側から見ているだけです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎」「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:冷たさをめぐる言葉
- 融解熱:固体が液体に変わるときに必要な熱。氷では 1 グラムあたり約 334 ジュールで、これは同じ量の水を約80℃ぶん温める熱に相当します。
- 凝固点降下(ぎょうこてんこうか):何かが溶けていると、凍る温度が下がる現象。本文の「壁をずらす」の正体です。
- 寒剤(かんざい):氷と塩のように、混ぜることで低温を作る材料の組み合わせ。冷凍庫のなかった時代から使われてきました。
- 共晶点(きょうしょうてん):塩水がこれ以上冷やせなくなる限界の温度。食塩水では約 −21℃、そのときの塩の割合は質量でおよそ23%とされています。
- 融雪剤・凍結防止剤:道路にまく薬剤。塩化ナトリウム(食塩)、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが使われます。
高校式で確かめる:なぜ砂糖ではなく、塩なのか
「氷に塩」は誰でも知っていますが、砂糖ではだめなのかという疑問はあまり語られません。これは計算で決着がつきます。
ΔT = K × m × i
| ΔT 凍る温度の下がり | 単位は ℃ |
| K 水で決まっている定数 | 1.86(水1 kgあたり) |
| m 溶かした量 | 単位は mol(水1 kgあたり) |
| i 水の中でいくつに分かれるか | 食塩は2、砂糖は1 |
ここで見てほしいのは、式に「重さ」ではなく「粒の数」が入っていることです。効くのは何グラム入れたかではなく、水の中に粒がいくつ散らばったかだけ。何の粒かは関係ありません。
そして i の意味が効きます。食塩は水の中でナトリウムと塩素に分かれるので、1粒入れると2粒になります。砂糖は分かれないので1粒のままです。
| 食塩1 mol の重さ | 約 58.5 g |
| 100 g は何 mol か | 100 ÷ 58.5 ≒ 1.71 mol |
| 分かれる数 | i = 2 |
| 式に入れる | ΔT = 1.86 × 1.71 × 2 |
| 答え | ΔT ≒ 6.4 ℃ 下がる |
| 砂糖1 mol の重さ | 約 342 g |
| 100 g は何 mol か | 100 ÷ 342 ≒ 0.29 mol |
| 分かれる数 | i = 1 |
| 式に入れる | ΔT = 1.86 × 0.29 × 1 |
| 答え | ΔT ≒ 0.54 ℃ しか下がらない |
差は 6.4 ÷ 0.54 ≒ 12 倍です。同じ100 g を入れたのに、これだけ違います。
理由は式の2か所にあります。ひとつは、砂糖の粒が重いので、同じ100 gでも粒の数が6分の1しかないこと。もうひとつは、砂糖は水の中で分かれないので、さらに2分の1になること。この2つが掛かって、約12倍の差になります。
「塩がいい」のではありません。「軽くて、水の中で分かれるものがいい」のです。式を見なければ、この言い換えは出てきません。
ここで正直に書いておきます。実際の寒剤は −21℃ ほどまで下がります。②で出した −6.4℃ とは、まるで合いません。
式が間違っているのではなく、使える範囲を外れています。この式は薄い溶液で成り立つ近似で、塩が濃くなると、粒どうしが互いに影響しあってずれていきます。塩を増やし続けても −21℃ 付近で止まるのも、この式では説明できません(次の節の共晶点の話です)。
| 食塩 100 g/水 1 kg の計算値 | 約 −6.4 ℃ |
| 食塩を限界まで入れたときの実測 | 約 −21 ℃ とされています |
式には必ず「使える範囲」があります。合わなかったときに、式を疑うのか、範囲を疑うのか。ここを見分けられるようになると、計算が道具として使えるようになります。
| 氷100 gの融解熱 | 334 × 100 = 33400 J |
| 水100 gを1℃下げる熱 | 4.2 × 100 = 420 J |
| 何度ぶん下げられるか | 33400 ÷ 420 ≒ 80 ℃ぶん |
※ 値は代表的な目安です。冷たさの主役が「融けること」であって「塩が溶けること」ではない、という差がここに出ています。
高校高校+なぜ溶けていると凍りにくいのか
水が凍るとは、水分子が規則正しく並んで結晶を作ることです。ここに別の粒子が混じっていると、並ぼうとする水分子の邪魔になります。結果として、より低い温度まで冷やさないと結晶ができません。
面白いのは、この効果の大きさが「何が溶けているか」ではなく「どれだけの数の粒子が溶けているか」で決まることです。砂糖でも塩でも、同じ数の粒子なら同じだけ下がります。こうした性質を束一的性質(そくいつてきせいしつ)と呼びます。
ここで塩が有利になります。NaCl は水の中で Na⁺ と Cl⁻ の2つに分かれるので、同じ量でも粒子の数が2倍になります。砂糖は分かれないので1個のままです。融雪剤に塩が使われるのは、安いことに加えて、この効率のよさがあります。
高校+式で書くと ΔTf = Kf × m × i。Kf は水では約 1.86 K·kg/mol、m は質量モル濃度、i は分かれてできる粒子の数(食塩では理想的には2)です。
大学限界がある理由 ― 共晶点
塩を増やせば増やすほど下がる、というわけにはいきません。塩水を冷やしていくと、まず氷が分離して残った液は濃くなります。濃くなるほど凝固点はさらに下がりますが、ある濃度・ある温度で、氷と塩の結晶が同時に析出しはじめます。この点が共晶点で、食塩水では約 −21.1℃、塩の質量割合およそ23% とされています。ここから先は、混合物全体が固まってしまうため、それ以上冷やす働きは得られません。
また、上に挙げた ΔTf = Kf·m·i の式は希薄な溶液でしか正確ではありません。濃い塩水ではイオンどうしが影響し合い、実効的な i は2より小さくなります。厳密な扱いには活量という概念が必要になり、状態図(相図)を使って議論します。
研究まだ決着していないこと
- 氷の表面には、0℃以下でも薄い液体の層があります。これは表面融解(表面前融解)と呼ばれ、19世紀にファラデーが提唱しました。存在は確立していますが、その厚さが温度とともにどう変わるのか、どこまでを「液体」と呼べるのかについては、実験手法によって結果が食い違い、現在も研究が続いています。
- 「なぜ氷は滑るのか」は、長く決着していない問題です。かつては「圧力で融けるから」と説明されていましたが、計算するとスケート靴の圧力では融点はほとんど下がらず、この説明は不十分だとされています。摩擦熱による融解と、上に述べた表面の液体層の両方が関わると考えられていますが、条件によって寄与が変わり、統一的な説明はまだありません。毎冬あれだけ滑っているのに、その理由が確定していないのです。
- 凍結を防ぐ「別のやり方」が生物にはあります。南極の魚や一部の昆虫は、不凍タンパク質を持っています。これは濃度で凝固点を下げるのではなく、氷の結晶の表面にくっついて成長を邪魔するという、まったく違う仕組みです。作用の詳細や、人工的に再現する方法は研究途上で、食品の冷凍や臓器の保存への応用が期待されています。
- 融雪剤の環境影響の評価も続いています。土壌の塩分濃度上昇、地下水や河川への流入、街路樹への影響が各地で報告されています。散布量を減らす技術や、代替となる薬剤の開発が進められていますが、コストと効果の両立は簡単ではありません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化と熱/溶解 | 融解に熱が要ること、氷が0℃で止まる理由 |
| 高校 | 化学基礎・物質量/物理基礎・熱量と比熱 | 融解熱の計算、80℃ぶんに相当するという比較 |
| 高校 | 化学・溶液の性質(凝固点降下) | 束一的性質、電解質で粒子数が2倍になること |
| 高校+ | 化学・希薄溶液の束一的性質 | ΔTf = Kf・m・i の式 |
| 大学 | 物理化学・相平衡 | 共晶点、状態図、活量、式が成り立たなくなる条件 |
| 研究 | 表面科学・低温生物学(未解決) | 氷表面の液体層、氷が滑る理由、不凍タンパク質 |
- Atkins, P. & de Paula, J., Physical Chemistry(凝固点降下、束一的性質、相図と共晶点)。
- Dash, J. G., Rempel, A. W. & Wettlaufer, J. S., The physics of premelted ice and its geophysical consequences, Reviews of Modern Physics 78, 695–741, 2006(氷の表面融解)。
- Rosenberg, R., Why is ice slippery?, Physics Today 58(12), 50–55, 2005(圧力融解説が不十分であることの解説)。
- 国土交通省および各道路管理者による、凍結防止剤の散布と環境影響に関する資料。
- Davies, P. L., Ice-binding proteins: a remarkable diversity of structures for stopping and starting ice growth, Trends in Biochemical Sciences 39(11), 548–555, 2014(不凍タンパク質)。
※ 融解熱・共晶点などの数値は、条件や測定方法によって幅があります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。観察を行う際は、氷と塩の混合物が氷点下まで下がるため、素手で長時間触れないでください。凍結防止剤の散布については、道路管理者および自治体の案内に従ってください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。