シャボン玉は、なぜ虹色に見えるの?
― 虹とは、別のしくみで色が生まれています
シャボン玉の表面には、油の膜が水面に浮いたときのような、ゆらゆらと動く虹色の模様が浮かびます。「シャボン玉も虹の一種だろう」と思うかもしれませんが、実は、空の虹とはまったく別のしくみで色が生まれています。虹は光が「分かれる」ことで、シャボン玉は光が「重なり合う」ことで色ができています。
シャボン玉を吹くと、表面に虹のような色の模様が浮かびます。空にかかる虹と同じように、赤・緑・紫といった色が並んで見えるため、「同じしくみだろう」と考えてしまいそうになります。
ところが、シャボン玉の色をよく観察すると、空の虹とは、決定的に違う点があります。虹は、いつも同じ順番で色が並ぶ、決まった形の帯です。一方シャボン玉の色は、膜が揺れ動くたびに、色の模様そのものが渦を巻くように変化し続けます。
この違いは、色が生まれる原理そのものが、根本的に違うことを示しています。
雨粒の中で、光が色ごとに違う角度で屈折し、分かれる(分散する)ことで、虹の色ができています。
シャボン玉の膜の表と裏で反射した光が重なり合い(干渉し)、強め合う色だけが目に見える形でできています。
「分かれてできる色」と「重なってできる色」――この違いを、順番に見ていきます。
虹は「分散」、シャボン玉は「干渉」です
虹は、別記事で詳しく説明しているとおり、光が雨粒の中で屈折するとき、色(波長)ごとに曲がる角度がわずかに違うために生まれます。これを分散と呼びます。1本の白い光が、色の違う何本もの光に「分かれる」のが、虹のしくみです。
シャボン玉の色は、これとはまったく違います。シャボン玉の膜は、目に見える光の波長に近いくらい、極めて薄い石けん水の膜です。光がこの膜に当たると、一部は膜の表面ではね返り、残りは膜の中を通り抜けて、裏面でもう一度はね返ります。
この「表面ではね返った光」と「裏面ではね返った光」が、同じ方向に進んで重なり合うとき、波の山と山が重なれば強め合い、山と谷が重なれば打ち消し合います。これを光の干渉と呼びます。
シャボン玉は、光が「重なり合う」ことで色が生まれます。
膜の厚さが、見える色を決めています
強め合う色は、膜の厚さによって変わります。膜が少し厚いところでは、ある色(たとえば青)が強め合い、少し薄いところでは、別の色(たとえば赤)が強め合う、という具合です。
シャボン玉の膜は、重力によって少しずつ下に流れ落ちながら、場所によって厚さが変化しています。そのため、膜の表面には、厚さの違いに応じた色の模様が、渦を巻くように浮かび上がります。膜がゆらゆら動けば、厚さの分布も変わるため、色の模様も絶えず変化し続けます。これが、空の虹とは違って、シャボン玉の色が動き続けて見える理由です。
割れる直前、シャボン玉は「透明な黒」になります
シャボン玉が割れる直前、膜の一部が、周囲の光をほとんど反射しない、黒っぽい部分になることがあります。これは、膜が光の波長よりもずっと薄くなり、表と裏の反射光がほぼ完全に打ち消し合ってしまうために起こるとされています。色が消えるのではなく、あらゆる色が同時に打ち消し合った結果として、黒く見えるというわけです。
自分で確かめられること
- 石けん水でシャボン玉を作り(または、シャボン液の膜を輪の中に張って)、できるだけ長く割れずに残る状態にする
- 明るい場所で、膜の表面の色の模様を、数十秒間観察し続ける
- 色の模様が、渦を巻くように少しずつ動いていくことを確かめる
- 割れる直前、一部が黒っぽく見える部分が現れないか探してみる
色の模様が動くのは、膜の厚さが、時間とともに変化し続けている証拠です。空の虹では、絶対に見られない現象です。
まとめ
シャボン玉の虹色は、空の虹と見た目こそ似ていますが、まったく別のしくみで生まれています。虹は光が色ごとに分かれる「分散」、シャボン玉は膜の表と裏で反射した光が重なり合う「干渉」によって色ができています。膜の厚さが変わるたびに見える色が変わるため、シャボン玉の模様は絶えず動き続けます。
シャボン玉は、小さな虹ではありません。
光どうしが重なり合ってできる、まったく別の芸術です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:シャボン玉の色をめぐる言葉
- 分散:光が、色(波長)ごとに違う角度で屈折し、分かれる現象。虹のしくみです。
- 干渉:複数の波が重なり合い、強め合ったり打ち消し合ったりする現象。
- 薄膜:光の波長に近いくらい、極めて薄い膜。
高校式で確かめる:シャボン玉の膜は、どれくらい薄いのか
ある色(波長)の光が強め合うために必要な、膜の厚さを実際に計算してみます。
膜の厚さ × 屈折率 × 2 =(強め合う次数 + 0.5)× 波長
| 膜の厚さ | 単位は nm(ナノメートル、10億分の1メートル) |
| 屈折率 | 石けん膜では、水に近い、およそ1.33とされています |
| 強め合う次数 | 0, 1, 2…と続く整数。もっとも薄い場合は0です |
| 波長 | 光の色に対応する値。単位は nm |
式に「+0.5」が入っているのは、膜の表面ではね返るときと、裏面ではね返るときとで、光の波の山と谷の位置が半分だけずれるという性質があるためです。くわしくは高校+の項目で説明します。
もっとも薄い場合(次数0)で、緑色の光が強め合う厚さを求めます。
| 屈折率 × 2 | 1.33 × 4 = 5.32 |
| 波長 ÷ (屈折率×2) | 550 ÷ 5.32 ≒ 103.4 |
| 膜の厚さ(もっとも薄い場合) | 約 103.4 nm |
1nm(ナノメートル)は10億分の1メートルです。髪の毛の太さのおよそ1000分の1という、想像を超えるうすさで、はじめて緑色の干渉が起こることがわかります。
次数を1つ増やすと、別の厚さでも同じ色が強め合います。
| 次数1のときの右辺 | 1.5 × 550 = 825 |
| 膜の厚さ(次数1) | 825 ÷ 2.66 ≒ 310.2 |
| 膜の厚さ(次数1) | 約 310.2 nm |
同じ緑色でも、約103nmと約310nmという、複数の厚さで強め合うことがわかります。膜の厚さが場所によって少しずつ違うために、シャボン玉の表面にさまざまな色の模様が現れるというわけです。
※ 実際のシャボン玉の膜厚は場所や時間によって変化し、ここでの数値は特定の色が強め合う条件の一例です。
高校+なぜ「+0.5」が必要なのか
光が、屈折率の低い物質から高い物質の境界ではね返るとき、波の位相が半波長分ずれるという性質があります。シャボン玉の膜の場合、表面(空気→石けん水)でのはね返りにはこのずれが起こりますが、裏面(石けん水→空気)でのはね返りには起こりません。この片方だけに起こるずれを式に反映させるために、「+0.5」という項が必要になります。
大学薄膜干渉は、身近な技術にも応用されています
薄膜干渉の原理は、カメラのレンズやメガネに使われる反射防止コーティングにも応用されています。膜の厚さを精密に調整することで、特定の波長の光の反射を打ち消し、レンズを通る光の量を増やすことができます。また、モルフォチョウの羽やクジャクの羽など、色素ではなく微細構造による「構造色」にも、薄膜干渉に似た原理が関わっているとされています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- シャボン玉の膜が、なぜある時間まで安定して存在し続け、その後どのように薄くなって割れるのかという、膜の排水・薄膜化の過程は、ソフトマター物理学という分野で、いまも研究が続いているテーマです。膜の表面張力の微妙な変化(マランゴニ効果と呼ばれる現象)が関わっているとされていますが、正確な予測モデルの確立は難しいとされています。
- 構造色を人工的に、より安定して再現する技術の研究も進められています。色素を使わずに鮮やかな色を出せるため、環境負荷の低い着色技術として注目されていますが、実用化には耐久性などの課題が残っているとされています。
- 洗剤や添加物の種類によって、シャボン玉の膜の寿命がどう変わるのかを、分子レベルで正確に予測することも、界面科学における研究課題の1つです。
ごく身近なシャボン玉のふるまいにも、薄膜の物理という、いまも研究が続く奥深い世界が広がっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の性質 | 分散・干渉・薄膜の基本用語 |
| 高校 | 物理・波の干渉 | 薄膜干渉の式から、膜の厚さを求める計算 |
| 高校+ | 物理・波の反射と位相 | 反射における位相のずれ(+0.5の意味) |
| 大学 | 光学・材料科学 | 反射防止コーティング、構造色 |
| 研究 | ソフトマター物理学(研究中) | 薄膜の排水・安定性、構造色の人工再現 |
- 物理教科書における、薄膜干渉(光の干渉)に関する解説。
- 光学関連の教科書における、反射時の位相のずれと反射防止コーティングの解説。
- ソフトマター物理学関連の研究文献における、石けん膜の排水・安定性(マランゴニ効果)に関する解説。
- 構造色に関する研究レビュー(モルフォチョウの羽などの微細構造による発色について)。
- 界面科学関連の教科書における、界面活性剤と膜の安定性に関する解説。
※ 屈折率・波長・膜厚の数値は代表的な目安です。実際のシャボン玉の膜厚や色の見え方は、観察条件によって幅があります。
※本記事は一般向けの科学解説です。シャボン玉遊びをする際は、液を誤って飲んだり目に入れたりしないよう注意し、製品の使用上の注意をご確認ください。