雪はなぜ六角形なの?
― 水の分子の並び方が、答えを教えてくれます
雪の結晶を虫眼鏡でのぞくと、細かい模様は1つ1つ違うのに、外形はいつも六角形か、六本の腕を持つ星の形をしています。五角形や七角形の雪の結晶は、まず見つかりません。この「必ず六」という規則性は、目に見えないほど小さな、水の分子の並び方から生まれています。
雪が降る日、手袋や黒い布の上に落ちてきた雪の結晶を、じっと見つめたことがあるかもしれません。枝分かれした模様は複雑で、1つとして同じ形はないように見えますが、よく見ると、必ず六角形の骨格を持っていることに気づきます。
雲の中では、無数の雪の結晶が、まったく別々の場所で、別々に成長しています。それなのに、なぜ、示し合わせたかのように、みんな六角形になるのでしょうか。
答えは、雪のもとになる水という物質そのものの、分子レベルの性質に隠されています。
水分子(H₂O)は、折れ曲がった、決まった角度の形をしています。
氷になるとき、水分子どうしは水素結合という力で、決まった向きにだけつながり、その結果、六角形をもとにした結晶構造ができます。
分子1個の形が、なぜ六角形の雪につながるのか、順番に見ていきます。
水の分子は、決まった形をしています
水分子(H₂O)は、酸素原子1個と水素原子2個からできています。この2個の水素原子は、まっすぐ反対側についているのではなく、折れ曲がった、決まった角度でついています。氷が水に浮くしくみでも紹介したとおり、この折れ曲がった形が、水という物質のさまざまな不思議な性質のもとになっています。
水分子は、水素結合で「決まった向き」につながります
水分子どうしは、水素結合という力で結びつきます。1個の水分子は、まわりの最大4個の水分子と、決まった方向で水素結合を作ることができます。液体の水では、この結合が絶えず組み変わっていますが、凍って氷になると、分子どうしの位置が固定され、規則正しい繰り返しの構造になります。
この、4方向への決まった結合角度で分子を積み重ねていくと、自然に六角形の環がくり返し並ぶ構造ができあがります。これが、氷(正確には、もっともふつうに見られる氷の結晶構造)の基本の形です。
水分子どうしがつながる角度が、最初から六角形を「約束」しています。
同じ六角形なのに、なぜ形はさまざまなのか
ここまでの説明だけだと、すべての雪の結晶が、同じ形になりそうなものです。ところが実際には、平らな板のような形、細長い柱のような形、木の枝のように広がる形など、驚くほど多様な形があります。
この違いを生んでいるのは、結晶が育つときの温度と湿度です。1930年代、日本の研究者・中谷宇吉郎は、実験室内で人工の雪の結晶を世界で初めて作り出し、温度と湿度の組み合わせによって、できる結晶の形が変わることを、詳しく調べ上げました。この研究で得られた対応関係は、いまも雪の結晶の形を理解するための基本的な資料として使われているとされています。
雪の結晶は、雲の中を落ちてくるあいだ、周囲の温度や湿度が変化する場所を通過します。そのため、1つの結晶の中でも、育った時間帯によって、少しずつ違う形の枝が伸びていくとされています。
「同じ雪の結晶は2つとない」と言われる理由
雪の結晶が、雲の中でたどる温度・湿度の変化の道筋は、1つ1つの結晶ごとに、ごくわずかでも異なると考えられています。この、ごくわずかな違いが、成長の過程で積み重なっていくため、細部までまったく同じ形の結晶ができる可能性は、天文学的に低いとされています。基本となる六角形の骨格は共通でも、細かい模様は無数のバリエーションが生まれるというわけです。
気温や湿度の条件によっては、六角形とははっきり分からない、単純な形や、不規則な形の結晶になることもあります。「雪はすべて美しい六角形の星形」というイメージは、多くの結晶に見られる代表的な形についての話であり、常にそうとは限りません。
自分で確かめられること
- 雪が降る地域では、黒い布や紙の上に雪を受け止め、虫眼鏡やスマートフォンのカメラでよく見る
- 雪が降らない場所でも、冷凍庫の中に薄く霜がついていないか探してみる(霜も、氷が水蒸気から直接結晶になったもので、六角形の模様が見られることがあります)
- 寒い日の朝、窓ガラスに氷の結晶模様がついていないか観察するのもよい方法です
雪でなくても、氷の結晶であれば、同じ水分子の並び方が反映され、六角形に関係した模様が見られることがあります。
まとめ
雪の結晶が六角形になるのは、水分子どうしが水素結合でつながるときの、決まった角度が、六角形の繰り返し構造を生み出しているからです。この分子レベルの六角形が、結晶が大きく育つときにも、外形として引き継がれます。ただし、結晶が育つ場所の温度と湿度によって、細かい形は驚くほど多様になり、細部までまったく同じ結晶は、まず存在しないと考えられています。
雪の結晶が六角形なのは、天気のいたずらではありません。
水という分子が、生まれつき持っている「約束」です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科・数学で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(結晶学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:雪の結晶をめぐる言葉
- 結晶:原子や分子が、規則正しく並んでできた固体。
- 水素結合:水素原子を仲立ちにして、分子どうしが引き合う力。
- 水蒸気:気体になった水。雪の結晶は、水蒸気が直接氷になる(昇華)ことで育ちます。
高校式で確かめる:六角形の角度を、実際に計算する
雪の結晶に六角形の対称性が現れる理由を、六角形という図形そのものの性質から確かめます。
内角の和 =(辺の数 - 2)× 180°
| 辺の数 | 六角形なので 6 |
| 内角の和 | 多角形の頂点の角度をすべて足した値 |
| 辺の数から2を引く | 6 − 2 = 4 |
| 4に180をかける | 4 × 180 = 720 |
| 内角の和 | 720° |
| 正六角形なので、1つの内角は | 720 ÷ 6 = 120 |
| 1つの内角 | 120° |
| 中心から見た角度(6等分) | 360 ÷ 6 = 60 |
| 中心から見た角度 | 60° |
雪の結晶の枝が、60°や120°の角度で分かれているのを見つけたら、それは偶然ではなく、結晶の基本構造そのものが持つ、六角形の幾何学的な性質が現れたものです。
※ 実際の結晶では、成長の過程での乱れにより、角度が厳密に60°・120°からずれることもあります。
高校+水分子は、最大4個の相手と結合します
水分子の酸素原子には、結合に使われていない電子の対(非共有電子対)が2組あります。これらも、まわりの水分子の水素原子と水素結合を作ることができるため、1個の水分子は、最大4個の水分子と水素結合を作れることになります。この「4方向への結合」という性質が、氷の結晶構造を決める、重要な出発点になっています。
大学結晶構造と「中谷ダイヤグラム」
氷のもっともふつうな結晶構造は「氷Ⅰh」と呼ばれ、水分子が六角形を基本とした繰り返し構造で並んでいます。中谷宇吉郎が作成した温度と過飽和度(水蒸気のたまり具合)と、できる結晶の形との対応図は、「中谷ダイヤグラム」として知られ、雪氷学の基礎資料として使われ続けているとされています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 雪の結晶が枝分かれしながら成長する、詳しい速度や形の決まり方(成長カイネティクス)には、いまも完全には解明されていない部分があるとされています。結晶の縁に水分子が取りこまれる、原子レベルのふるまいが関わっていると考えられています。
- 雲の中の温度・湿度分布を、より精密にシミュレーションし、雪の結晶の形の多様性を予測するモデルの開発も、気象学・結晶成長学の研究課題です。
- 「まったく同じ雪の結晶は存在しない」という考え方についても、分子レベルまで完全に同一かどうかを厳密に検証することは、現実には不可能に近いとされ、あくまで統計的・確率的な議論にとどまっているとされています。
身近な雪の結晶にも、結晶成長という、いまも研究が続く物理学の奥深いテーマが関わっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化 / 数学・多角形 | 結晶・水素結合の基本用語 |
| 高校 | 化学基礎・分子の構造 | 多角形の内角の和から、六角形の角度を求める計算 |
| 高校+ | 化学・分子間力 | 水分子の非共有電子対と、4方向の水素結合 |
| 大学 | 結晶学・雪氷学 | 氷Ⅰhの結晶構造、中谷ダイヤグラム |
| 研究 | 結晶成長学(研究中) | 結晶成長カイネティクス、雲内シミュレーション |
- 中谷宇吉郎『雪』(岩波新書)ほか、雪氷学の古典的な解説書。
- 化学基礎教科書における、水分子の構造と水素結合に関する解説。
- 結晶学関連の教科書における、氷Ⅰhの結晶構造に関する解説。
- 気象庁・北海道大学低温科学研究所関連の資料における、雪の結晶の分類(中谷ダイヤグラム)について。
- 雪氷学分野の研究レビューにおける、結晶成長カイネティクスに関する解説。
※ 分子構造・角度などの数値は代表的な値です。実際の結晶の形は、成長条件によって幅があります。
※本記事は一般向けの科学解説です。雪や氷にまつわる観察を行う際は、寒冷地での安全な服装・行動にご注意ください。