寒いと鳥肌が立つのは、なぜ?
― しかも、効いていません
寒い日、腕にぽつぽつと粒が浮かびます。体が何かをしようとしているのは確かです。ところがその「何か」は、人間の体ではほとんど役に立っていません。私たちは、もう毛がないのに、毛を立てる動作だけを続けているのです。
ひとつめ。寒い日に、公園のスズメがまん丸にふくらんでいます。羽をぶわっと立てて、別の鳥のように見えます。
ふたつめ。びっくりしたネコが、しっぽを太くして毛を逆立てています。体を大きく見せています。
どちらも、皮膚の下にある小さな筋肉が働いて、毛や羽を立てています。人間の腕に浮かぶ粒も、まったく同じ筋肉が同じことをしている姿です。
違うのは一点だけ。私たちには、立てるべき毛がほとんど残っていません。
毛1本ごとに、斜めに引っぱる筋肉がついています。これが縮むと毛が立ち、皮膚が引き寄せられて粒に見えます。あの粒は毛穴のまわりの盛り上がりです。
毛が立つと、毛と毛のあいだに動かない空気がたまります。空気は熱を伝えにくいので、毛皮のある動物では強力な防寒になります。
つまり鳥肌は、羽毛布団を自前で作る動作です。ただし人間の場合、その効果はほぼありません。順に見ていきましょう。
なぜ「空気の層」が暖かいのか
空気は、熱をとても伝えにくい物質です。金属の1万分の1以下しか熱を通しません。だから空気そのものが優秀な断熱材です。
ただし条件があります。空気が動いてはいけません。空気が流れると、温まった空気が運び去られて、次々に冷たい空気が来てしまいます。
だから防寒具はすべて、「空気を閉じ込める」ことを狙って作られています。
- 羽毛布団 ― 羽の細かい枝の間に、大量の空気を抱え込みます
- セーター ― 毛糸の隙間が空気を保持します。編み目が詰まりすぎると、かえって暖かくありません
- 重ね着 ― 服と服のあいだの空気の層が効いています。1枚の厚い服より、薄手の重ね着のほうが暖かいことがあるのはこのためです
- 二重窓 ― ガラスとガラスの間の空気が、熱の行き来を止めています
毛を立てるのは、体の表面に、この空気の層を作る動作です。スズメがまん丸にふくらむのは、羽の間に空気をためて厚い布団を着ているのと同じことです。
ただし、私たちには布団がありません。
人間では、なぜ効かないのか
人間の体毛は、ほとんどが短くて細い毛です。立ててみたところで、閉じ込められる空気はごくわずかしかありません。断熱の効果は、実用的にはないに等しいとされています。
それでも反射は残っています。毛を動かす筋肉も、それを命じる神経も、そのまま働いています。装置は残っているのに、対象がなくなった状態です。
こうしたものを痕跡(こんせき)といいます。祖先には役に立っていたが、いまは働きを失った体の特徴です。親知らずや、耳を動かす筋肉(動かせる人がいます)も同じ仲間だとされています。
鳥肌が効かないぶん、人間の体はほかの手を使っています。
- 皮膚の血管を細くする ― 体の表面に流れる血を減らして、熱が逃げるのを抑えます。寒いと手足が白く冷たくなるのはこれです。いちばん効いているのはこの働きだとされています
- ふるえる ― 筋肉を細かく動かして熱を作ります。運動と同じで、動けば熱が出ます
- 熱を作る専用の脂肪を使う ― 赤ちゃんに多く、大人にも残っていることがわかってきました。震えずに熱を作れます
- 丸くなる・服を着る ― 表面積を減らし、外に空気の層を作ります。結局これがいちばん確実です
寒くないのに鳥肌が立つのは、なぜ?
音楽を聴いて、または映画の場面で、ぞわっと鳥肌が立つことがあります。体温とは何の関係もありません。
毛を立てる筋肉を動かしているのは、自分の意思では動かせない神経です。この神経は、体を「戦うか逃げるか」の状態に切り替えるときにも働きます。心臓がどきどきする、手に汗をかく、瞳が大きくなる――鳥肌は、その一式のうちの一つです。
だから強い感情が起きたとき、体温と関係なく毛が立ちます。怖いときに鳥肌が立つのは、動物が毛を逆立てて体を大きく見せるのと、同じ回路です。ネコがしっぽを太くするのを、私たちは毛のない体でやっているわけです。
面白いことに、この現象の呼び名は世界中で鳥に結びついています。日本語の「鳥肌」、英語では「ガチョウの皮」、フランス語では「にわとりの肌」。毛をむしった鳥の皮膚のぶつぶつを、どこの国の人も思い浮かべたようです。
家で確かめられること
- 薄手のシャツを3枚重ねて腕に巻いた状態と、同じくらいの重さの厚手の生地1枚を巻いた状態を用意する
- それぞれの上から、保冷剤を同じ時間当てて、冷たさの伝わり方を比べる
- 次に、重ねた3枚をぎゅっと押しつぶしてから、もう一度試す
- 押しつぶすと、急に冷たさが伝わりやすくなります
生地は同じなのに、結果が変わります。効いていたのは布ではなく、布と布のあいだの空気だったということです。ダウンジャケットを圧縮袋に入れると薄くぺしゃんこになりますが、あれは中身のほとんどが空気だからです。着るときによく振ってふくらませると暖かくなるのも、同じ理由です。
まとめ
寒いと鳥肌が立つのは、毛を立てて空気の層を作り、体を保温しようとする反射だからです。ただし人間には立てる毛がほとんどなく、動作だけが残った痕跡になっています。感動したときに鳥肌が立つのは、同じ神経が感情でも働くためです。
体は、いまも持っていない毛を立てようとしています。
進化は、装置を消し忘れることがあります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「生物」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・伝熱工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:からだと熱の言葉
- 立毛筋(りつもうきん):毛穴に斜めについている小さな筋肉。これが縮んで毛が立ちます。自分の意思では動かせません。
- 立毛(りつもう):毛が立つこと。鳥肌の正体です。
- 自律神経:内臓や血管、立毛筋などを、意思とは無関係に調節する神経。緊張時に働く側と、休息時に働く側があります。
- 痕跡(こんせき):祖先には役立っていたが、いまは働きを失った体の特徴。親知らず、耳を動かす筋肉など。
- 恒常性(ホメオスタシス):体内の状態を一定に保とうとする働き。体温の調節はその代表です。
高校式で確かめる:人の鳥肌は、暖かくないことが計算で出る
鳥肌は「毛を立てて空気の層を作り、寒さを防ぐ」しくみです。では、人の鳥肌はどれくらい効いているのか。計算すると、身も蓋もない答えが出ます。
逃げる熱 = 熱の伝わりやすさ × 面積 × 温度差 ÷ 厚さ
| 逃げる熱 | 単位は W(1秒あたりのJ) |
| 熱の伝わりやすさ | 動かない空気で 0.026 W/(m·K) |
| 面積 | 単位は m² |
| 温度差 | 体と外気の差[℃] |
| 厚さ | 空気の層の厚み[m] |
大事なのは厚さで割っていることです。空気の層が厚いほど、熱は逃げにくくなります。羽毛布団もセーターも、原理はこれです。生地が暖かいのではなく、生地が空気を閉じこめているから暖かいのです。
毛を立てるというのは、この「厚さ」を増やす動作です。だから計算できます。
| 毛を立ててできる空気の層 | 1 cm = 0.01 m とする |
| 面積 | 1 m² とする |
| 温度差 | 10 ℃ とする |
| 分子を計算する | 0.026 × 1 × 10 = 0.26 |
| 逃げる熱 | 0.26 ÷ 0.01 = 26 W/m² |
比べるために、毛が寝ていて空気の層が 1 mm しかない場合も出します。
| 層が 0.001 m のとき | 0.26 ÷ 0.001 = 260 W/m² |
| 毛を立てた効果 | 260 ÷ 26 = 10 分の1になる |
毛を立てるだけで、逃げる熱が10分の1になります。これは決定的です。毛の生えた動物にとって、鳥肌は生死を分けるしくみだとわかります。
ここが本題です。人の体毛は、うぶ毛がほとんどです。立てても、できる空気の層はごくわずかです。
| 人のうぶ毛で作れる層 | 0.5 mm = 0.0005 m とする |
| 逃げる熱 | 0.26 ÷ 0.0005 = 520 W/m² |
| 毛の生えた動物(②)は | 26 W/m² |
| 差 | 520 ÷ 26 = 20 倍 |
人の鳥肌は、毛のある動物の20分の1しか効いていません。正直にいえば、保温としてはほとんど無意味です。
それでも、私たちの体には毛を立てる筋肉がきちんと残っていて、寒いとき・怖いときに、いまも律儀に働いています。役に立たなくなった機能が、動作だけ残っている。この計算が示しているのは、そういうことです。
鳥肌は、体が毛でおおわれていた時代の名残だと考えられています。「なぜ効かないのに残っているのか」という問いは、計算をしてはじめて立ちます。効いていると思っているうちは、疑問にすらなりません。
※ 実際には風・湿度・衣服・血流の変化も効くため、この計算は毛だけを取り出した比較です。人の体温調節では、血管を締める・ふるえる・衣服を着る、のほうがはるかに大きく働いています。
高校数字で見る「空気の断熱力」
熱の伝わりやすさ(熱伝導率)を比べると、空気の優秀さがわかります。
| 銅 | 約 400 |
| 水 | 約 0.6 |
| 木材 | 約 0.15 |
| 羊毛・羽毛(空気を含んだ状態) | 約 0.04 |
| 静止した空気 | 約 0.026 |
※ 温度や湿度で変わります。代表的な目安です。
羊毛や羽毛が空気そのものよりわずかに劣るのは、繊維自身が熱を伝えるためです。つまり防寒具の主役は繊維ではなく、繊維が抱えている空気のほうです。
また濡れると一気に寒くなるのも、この表で説明できます。空気の場所を水が占めると、熱の伝わりやすさが20倍以上になります。雨に濡れた状態で体温が下がりやすいのは、このためです。
高校高校+体温を保つしくみ全体
体温の調節は、脳の視床下部にある中枢が担っています。設定温度と実際の温度を比べ、ずれを打ち消す向きに指令を出すという、負のフィードバックの仕組みです。エアコンのサーモスタットと考え方は同じです。
寒いときの反応は、大きく2つに分かれます。
- 熱を逃さない:皮膚の血管を細くする、立毛(人間では効果が乏しい)
- 熱を作る:ふるえによる産熱、褐色脂肪組織による産熱
皮膚の血管を細くする働きは強力で、手足の血流を減らすことで体の中心部の温度を守ります。手足が冷たくなるのは不調ではなく、体幹を優先した結果です。ただし限度を超えると凍傷の危険につながります。
大学立毛筋には、別の役割があるかもしれない
立毛筋は長らく「役に立たなくなった筋肉」と見なされてきました。ところが近年、毛の再生に関わっている可能性が示されています。
研究によれば、立毛筋は交感神経の末端と毛包幹細胞を物理的につなぐ足場になっており、寒さなどの刺激が神経を介して幹細胞に伝わり、毛の成長を促すという経路が報告されています。立毛筋を失わせると、この経路が働かなくなることも示されました。
つまり、「毛を立てる」という機能は失われても、「毛を作らせる」という別の役目のために残っているのかもしれません。痕跡と考えられてきたものに、現役の役割が見つかった例です。
研究まだわかっていないこと
- 音楽で鳥肌が立つ人と立たない人がいる理由は、解明されていません。強い感動で鳥肌が立つ現象は、人口の一定割合では起こらないと報告されています。脳内で聴覚の領域と感情の領域をつなぐ神経の束の太さと関連する、という研究がありますが、研究の規模が小さく、結論は確定していません。そもそも、なぜ音楽という生存に直結しないものが、危険に備える神経を作動させるのかも謎です。
- 痕跡がなぜ失われずに残るのかも、単純ではありません。役に立たない仕組みは自然に消えていきそうですが、実際には消えないことが多くあります。維持にほとんど費用がかからない、別の機能と部品を共有している、といった理由が考えられますが、個々の事例で見極めるのは難しい問題です。立毛筋の新しい役割の発見は、「痕跡だと思ったら現役だった」可能性を示しています。
- 大人の褐色脂肪の役割も、研究の途上です。かつては赤ちゃんだけのものと考えられていましたが、大人にも存在することが画像診断で確認されました。寒さへの適応や代謝との関連が調べられていますが、個人差が大きく、健康への応用にはまだ距離があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・皮膚と刺激への反応/熱の伝わり方 | 立毛筋のはたらき、空気の層 |
| 高校 | 生物基礎・自律神経と恒常性/体温調節 | 負のフィードバック、血管収縮とふるえ |
| 高校 | 物理基礎・熱の移動 | 熱伝導率の比較、濡れると寒い理由 |
| 高校+ | 生物・進化(痕跡器官) | 装置は残り、対象が消えた状態 |
| 大学 | 生理学・幹細胞生物学・伝熱工学 | 交感神経と毛包幹細胞、褐色脂肪、断熱設計 |
| 研究 | 神経科学・進化生物学(未解決) | 音楽による鳥肌、痕跡が残る理由、褐色脂肪 |
- Shwartz, Y. et al., Cell types promoting goosebumps form a niche to regulate hair follicle stem cells, Cell 182(3), 578–593, 2020(立毛筋と毛包幹細胞の関係)。
- Guyton & Hall, Textbook of Medical Physiology(体温調節の標準的な教科書)。
- Sachs, M. E. et al., Brain connectivity reflects human aesthetic responses to music, Social Cognitive and Affective Neuroscience 11(6), 884–891, 2016(音楽による鳥肌と脳の接続。研究規模は小さいものです)。
- Cypess, A. M. et al., Identification and importance of brown adipose tissue in adult humans, New England Journal of Medicine 360, 1509–1517, 2009。
- 日本産業衛生学会ほかによる、寒冷環境と体温調節に関する資料。
※ 熱伝導率などの数値は、条件によって幅があります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。体調や健康に関する判断は、医師など専門家にご相談ください。寒冷環境での活動時は、低体温症や凍傷を防ぐため、濡れた衣服を避け、適切な防寒を行ってください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。