🧊 物質のふしぎ ⚛ 分子のかたち 予備知識なしでOK 読了 約8分

なぜ氷は水に浮くの?
― ほとんどの物質は、沈みます

氷が浮くのは当たり前に見えます。ところがこれは、物質としてはかなりの変わり者です。たいていの物質は、固まると縮んで沈みます。水だけが、凍ると太る。そしてこの一点の例外がなければ、地球の湖や海は、底から凍りついていたかもしれません。

公開:2026.08.16 難易度:★★☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、当たり前を疑ってみてください

コップの水に氷を入れると、氷は浮きます。誰も不思議に思いません。

では、ろうそくのロウを溶かして、そこへ固まったロウのかけらを落としたらどうなるでしょう。沈みます。溶けた金属に同じ金属の固体を入れても、たいてい沈みます。

理由は単純です。ものが固まるとき、粒はきちんと並んですきまなく詰まろうとします。詰まれば同じ体積あたりが重くなり、液体より重くなる。だから沈む。これがふつうです。

水は、そうなりません。凍ると、体積が約9%増えます。ペットボトルに水を入れて凍らせると、パンパンにふくらむのはこのためです。

1
水の分子は「く」の字で、手を4本持っている

水の分子はまっすぐではなく折れ曲がっていて、決まった向きに4方向へ手をつなぐ性質があります。この「向きが決まっている」ことが決定的です。

2
きちんと手をつなぐと、すきまだらけになる

氷では全員が4方向に手をつなぎ、すきまの多い骨組みができます。液体のときのほうが、手を切ったりつないだりしながらぎゅっと寄り集まれるのです。

つまり水は、整列すると、かえって場所を取るという珍しい性質を持っています。順に見ていきましょう。

① 固まったときの、詰まり方の違い ふつうの物質 すきまなく詰まる 固体のほうが重い → 沈む 氷(水) すきま 向きの決まった骨組みになる 固体のほうが軽い → 浮く ② そのおかげで、湖は底まで凍らない 実際(氷は浮く) 氷のふた 下は水のまま(約4℃) 生き物が越冬できる もし氷が沈んだら 氷が底にたまっていく 凍るそばから沈む やがて全部が凍りつく
図1:上は詰まり方の比較。ふつうの物質は固まるとすきまなく詰まって重くなり沈みますが、氷は向きの決まった骨組みになってすきまができ、軽くなって浮きます。下は湖のようす。氷が浮くから表面にふたができて下に水が残り(左)、もし沈めば凍るそばから底にたまり、やがて全体が凍ります(右)。

なぜ氷にはすきまができるのか

水の分子は、酸素1つと水素2つが「く」の字に折れ曲がった形をしています。この形のせいで電気のかたよりが生まれ、ある分子の水素が、別の分子の酸素に引き寄せられます。分子どうしが手をつなぐようなものです。

大事なのは、この手が「好きな方向」を持っていることです。どこにでもつなげるわけではなく、決まった角度でしかうまくつながりません。1つの分子は、4方向に手を伸ばせます。

ゆっくり冷やしていくと、分子は動きを止め、全員がいちばん都合のよい向きで手をつなぎます。すると、正四面体を積み上げたような骨組みができます。この骨組みは、中身がすかすかです。

一方、液体の水では手が絶えず切れたりつながったりしています。整列していないぶん、分子はすきまに入り込んで、より密に寄り集まれます

だから水は、凍ると(=きちんと並ぶと)かえって体積が増えるのです。整列が損になる、という珍しい物質です。

たいていの物質は、並ぶと縮みます。
水は、並ぶとふくらみます。
💡 水はもう一段おかしくて、4℃で最も重くなります

ふつう、液体は冷やすほど縮んで重くなります。ところが水は4℃でいちばん重く、そこから0℃へ冷やすと、逆に軽くなっていきます

氷の骨組みができはじめる準備が、液体のうちから始まっているためだと説明されています。「詰まろうとする効果」と「骨組みを作ろうとする効果」がせめぎ合い、4℃で釣り合うわけです。

この性質も、湖にとって大切です。冬に表面が冷えると水は重くなって沈み、湖全体がかき混ぜられます。しかし4℃より冷たくなると軽くなるので、そこで沈むのをやめます。冷たい水は表面に残って凍り、底には4℃の水が保たれます

もし氷が沈んでいたら

想像してみてください。冬、湖の表面で氷ができます。氷が沈むなら、できたそばから底へ落ちていきます。

すると表面はいつまでも水のままで、冷たい空気にさらされ続け、次々に凍り続けます。氷は底から積み上がっていき、やがて湖全体が氷の塊になります

しかも夏になっても、底の氷は太陽の光も届かず、上に水があるので温まりにくい。溶けきらずに残るかもしれません。

実際には、氷が浮くので表面にふたができます。氷は熱を伝えにくいので、その下の水は冷えるのが遅くなります。だから底には水が残り、魚や水草は冬を越せます(図1の下)。

この性質がなければ、寒い地域の水中の生き物は成り立たなかったかもしれません。分子の形がたまたま「く」の字だったことが、生態系の前提になっています。

🔎 よくある誤解:「北極の氷が溶けると海面が上がる」

北極の海に浮いている氷が溶けても、海面はほとんど変わりません。浮いている氷は、すでに自分の重さの分だけ水を押しのけています。溶けて水になれば、ちょうどその押しのけていた体積におさまります。

コップの氷水で確かめられます。氷が全部溶けても、水はあふれません。

では海面上昇はどこから来るのか。陸の上にある氷です。グリーンランドや南極の氷床、山の氷河。これらは海に浮いていないので、溶けた分がそのまま海へ加わります。「浮いている氷」と「陸の氷」を区別することが大事です(このほか、海水そのものが温まって膨張する効果も大きいとされています)。

凍ると太ることの、困った側面

体積が増えるという性質は、時に大きな力になります。水が凍るときに押し広げる力は、非常に強いのです。

また、氷に塩をかけると温度が下がる話も、同じ水の性質から出ています。

台所で確かめられること

🧪 一晩でできる観察:氷が「太る」のを見る
  1. 小さめの容器(プラスチックのカップなど)に、水をふちギリギリまで入れる
  2. 水面の高さに油性ペンで印をつける
  3. 冷凍庫で一晩凍らせる
  4. 翌朝、氷の表面が印より高く盛り上がっています。ふくらんだ分です
  5. 次に、コップに水と氷を入れて水面に印をつけ、氷が全部溶けるまで置く。水面はほぼ変わりません

前半で「凍ると体積が増える」ことが、後半で「浮いている氷が溶けても水面は変わらない」ことが、同時に確かめられます。ガラス瓶やふたの閉まる容器では絶対に行わないでください。割れることがあります。

まとめ

氷が水に浮くのは、水の分子が「く」の字に折れ曲がっていて、決まった向きにしか手をつなげないからです。きちんと並ぶとすきまだらけの骨組みになり、液体のときより軽くなります。整列すると損をする、という珍しい物質です。

分子がまっすぐな形だったら、
湖は底から凍っていたかもしれません。

もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:水のふしぎを表す言葉

高校式で確かめる:氷山の見えている部分は、何割か

「氷山の一角」という言葉があります。では、その一角は何割なのか。密度がわかっていれば、割り算1回で出ます。

① まず、式そのもの

沈んでいる割合 = 氷の密度 ÷ 液体の密度

氷の密度0.917 g/cm³
水の密度1.000 g/cm³
海水の密度1.025 g/cm³

浮いているものは、自分の重さと同じだけの液体を押しのけたところで止まります。だから沈む割合は、2つの密度の比だけで決まります。大きさも形も関係ありません。角氷でも氷山でも、同じ割合です。

② 数値を入れて解いてみる
水に浮かべたとき、沈む割合0.917 ÷ 1.000 = 0.917(91.7%)
水面から出ている割合(1 − 0.917) × 100 = 8.3 %
海水に浮かべたとき、沈む割合0.917 ÷ 1.025 ≒ 0.895(89.5%)
海では、出ている割合(1 − 0.895) × 100 ≒ 10.5 %

見えているのは、およそ1割です。「氷山の一角」という言い回しは、比喩ではなくほぼ正確な数字だったことになります。

海水のほうがわずかに多く顔を出すのは、塩のぶん海水が重いからです。0.917 という数字ひとつで、ここまで出せます。

③ 逆向きに使うと、台所の注意が出てくる

同じ数字を、こんどは逆から見ます。水が氷になると、体積はどれだけ増えるのか。

水 1 L が氷になったときの体積1 ÷ 0.917 ≒ 1.09 L
増える割合(1.09 − 1) × 100 = 9 %

約9%ふくらみます。ここから、いくつかのことが説明できます。

  • 飲み物を凍らせると容器が割れます。ふたを閉めたペットボトルは、逃げ場がないので破裂します
  • 冬に水道管が破裂します。管の中の水が9%ふくらむ場所がなく、金属を押し破ります
  • 岩が割れ、道路に穴があきます。すき間に入った水が凍り、押し広げます。これがくり返されて地形を変えます

「凍ると膨らむ」は、たった9%です。それでも金属の管を破ります。逃げ場がないと、わずかな体積変化でもこれだけの力になります。

④ そして、池が底から凍らない理由

水にはもうひとつ変わった性質があります。いちばん重くなるのは0℃ではなく、4℃です。

4℃の水の密度1.000 g/cm³(最大)
0℃の水の密度約 0.9999 g/cm³
0℃の氷の密度0.917 g/cm³

冷えた水は下へ沈みますが、4℃を過ぎると逆に軽くなるので、それ以上は沈みません。結果として、池は底に4℃の水がたまり、表面から凍っていきます。

もし氷が沈む物質だったら、水面で凍った氷が底へ落ち、池は底から順に凍りついていたはずです。0.917 という数字が、そこに生き物が越冬できるかどうかを決めています。

高校数字で見ると、どれくらい軽いのか

氷と水(代表的な値)
氷(0℃)の密度約 0.917 g/cm³
水(4℃)の密度1.000 g/cm³
凍ったときの体積の増え方1 ÷ 0.917 ≒ 1.09 → 約 9% 増える
真水に浮かぶ氷の、水面より上の割合(1 − 0.917) × 100 = 約 8%
海水(約1.025)に浮かぶ場合(1 − 0.917 ÷ 1.025) × 100 ≒ 約 11%

※ 温度や不純物によって変わります。代表的な目安です。

「氷山の一角」という言い方は、この計算から来ています。見えているのは全体のおよそ1割で、残りは水面下にあります。

高校高校+なぜ「向きが決まっている」ことが効くのか

水分子は約104.5度に折れ曲がっており、酸素側が負、水素側が正に帯電しています。1つの分子は水素2つで手を差し出し、酸素の電子対2組で手を受け取るので、合計4方向に結合できます。

この4本が、正四面体の頂点を向く配置でもっとも安定します。全員がこの向きを満たそうとすると、必然的に六角形のトンネルが空いた構造ができあがります。雪の結晶が六角形になるのも、この骨組みが表に出たものです。

比べてみると違いがはっきりします。多くの分子どうしの引力(ファンデルワールス力)は向きを選びません。だから固まるときは、球をできるだけ詰め込む形になり、密度が上がります。水は、結合に向きがあるせいで、詰め込みを犠牲にしているのです。

大学相図の傾きが、逆を向いている

物質の状態を圧力と温度で表した図(相図)で、水は特徴的な形をしています。固体と液体の境界線が、左に傾いているのです。ほとんどの物質では右に傾きます。

これは、圧力をかけると氷が溶けることを意味します。クラウジウス・クラペイロンの関係 dP/dT = ΔH / (T ΔV) において、融解での体積変化 ΔV が負になるためです。ふつうの物質では正なので、傾きの符号が逆になります。

ただし注意も必要です。「スケートで滑るのは圧力で氷が溶けるから」という説明が広く知られていますが、計算すると、スケート靴の圧力で下がる融点はごくわずかで、これだけでは説明できません(この点は氷に塩をかける記事でも触れています)。

さらに高い圧力では、私たちの知る氷とは別の構造の氷が現れます。番号で区別され、これまでに20種類近くが報告されています。そのなかには液体の水より重いものもあります。「氷は浮く」は、地上の条件に限った話なのです。

研究水は、いまも説明しきれていません

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・密度/状態変化/浮力凍ると体積が増える、浮く理由、湖の話
高校化学基礎・分子の形と極性/分子間力「く」の字の形、水素結合、4方向の結合
高校+化学・結晶構造/状態図すきまの多い骨組み、雪の六角形
大学物理化学・相平衡相図の傾き、クラウジウス・クラペイロン、高圧の氷
研究液体の物理(未解決)水の異常の統一的説明、二状態の仮説、過冷却の限界
地学・生物凍結破砕、湖の越冬、海面上昇の誤解
参考・出典
  1. Atkins, P. & de Paula, J., Physical Chemistry(相図、水素結合、状態変化)。
  2. Petrenko, V. F. & Whitworth, R. W., Physics of Ice(氷の構造と物性の標準的な教科書)。
  3. Gallo, P. et al., Water: A Tale of Two Liquids, Chemical Reviews 116(13), 7463–7500, 2016(二状態の仮説をめぐる総説)。
  4. Kim, K. H. et al., Maxima in the thermodynamic response and correlation functions of deeply supercooled water, Science 358, 1589–1593, 2017(過冷却水の測定)。
  5. IPCC 第6次評価報告書(海面上昇の要因に関する評価)。

※ 密度などの数値は、温度や不純物によって変わります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安であり、条件によって幅があります。観察の際は、密閉容器やガラス容器で水を凍らせないでください。破損のおそれがあります。