なぜ氷は水に浮くの?
― ほとんどの物質は、沈みます
氷が浮くのは当たり前に見えます。ところがこれは、物質としてはかなりの変わり者です。たいていの物質は、固まると縮んで沈みます。水だけが、凍ると太る。そしてこの一点の例外がなければ、地球の湖や海は、底から凍りついていたかもしれません。
コップの水に氷を入れると、氷は浮きます。誰も不思議に思いません。
では、ろうそくのロウを溶かして、そこへ固まったロウのかけらを落としたらどうなるでしょう。沈みます。溶けた金属に同じ金属の固体を入れても、たいてい沈みます。
理由は単純です。ものが固まるとき、粒はきちんと並んですきまなく詰まろうとします。詰まれば同じ体積あたりが重くなり、液体より重くなる。だから沈む。これがふつうです。
水は、そうなりません。凍ると、体積が約9%増えます。ペットボトルに水を入れて凍らせると、パンパンにふくらむのはこのためです。
水の分子はまっすぐではなく折れ曲がっていて、決まった向きに4方向へ手をつなぐ性質があります。この「向きが決まっている」ことが決定的です。
氷では全員が4方向に手をつなぎ、すきまの多い骨組みができます。液体のときのほうが、手を切ったりつないだりしながらぎゅっと寄り集まれるのです。
つまり水は、整列すると、かえって場所を取るという珍しい性質を持っています。順に見ていきましょう。
なぜ氷にはすきまができるのか
水の分子は、酸素1つと水素2つが「く」の字に折れ曲がった形をしています。この形のせいで電気のかたよりが生まれ、ある分子の水素が、別の分子の酸素に引き寄せられます。分子どうしが手をつなぐようなものです。
大事なのは、この手が「好きな方向」を持っていることです。どこにでもつなげるわけではなく、決まった角度でしかうまくつながりません。1つの分子は、4方向に手を伸ばせます。
ゆっくり冷やしていくと、分子は動きを止め、全員がいちばん都合のよい向きで手をつなぎます。すると、正四面体を積み上げたような骨組みができます。この骨組みは、中身がすかすかです。
一方、液体の水では手が絶えず切れたりつながったりしています。整列していないぶん、分子はすきまに入り込んで、より密に寄り集まれます。
だから水は、凍ると(=きちんと並ぶと)かえって体積が増えるのです。整列が損になる、という珍しい物質です。
水は、並ぶとふくらみます。
ふつう、液体は冷やすほど縮んで重くなります。ところが水は4℃でいちばん重く、そこから0℃へ冷やすと、逆に軽くなっていきます。
氷の骨組みができはじめる準備が、液体のうちから始まっているためだと説明されています。「詰まろうとする効果」と「骨組みを作ろうとする効果」がせめぎ合い、4℃で釣り合うわけです。
この性質も、湖にとって大切です。冬に表面が冷えると水は重くなって沈み、湖全体がかき混ぜられます。しかし4℃より冷たくなると軽くなるので、そこで沈むのをやめます。冷たい水は表面に残って凍り、底には4℃の水が保たれます。
もし氷が沈んでいたら
想像してみてください。冬、湖の表面で氷ができます。氷が沈むなら、できたそばから底へ落ちていきます。
すると表面はいつまでも水のままで、冷たい空気にさらされ続け、次々に凍り続けます。氷は底から積み上がっていき、やがて湖全体が氷の塊になります。
しかも夏になっても、底の氷は太陽の光も届かず、上に水があるので温まりにくい。溶けきらずに残るかもしれません。
実際には、氷が浮くので表面にふたができます。氷は熱を伝えにくいので、その下の水は冷えるのが遅くなります。だから底には水が残り、魚や水草は冬を越せます(図1の下)。
この性質がなければ、寒い地域の水中の生き物は成り立たなかったかもしれません。分子の形がたまたま「く」の字だったことが、生態系の前提になっています。
北極の海に浮いている氷が溶けても、海面はほとんど変わりません。浮いている氷は、すでに自分の重さの分だけ水を押しのけています。溶けて水になれば、ちょうどその押しのけていた体積におさまります。
コップの氷水で確かめられます。氷が全部溶けても、水はあふれません。
では海面上昇はどこから来るのか。陸の上にある氷です。グリーンランドや南極の氷床、山の氷河。これらは海に浮いていないので、溶けた分がそのまま海へ加わります。「浮いている氷」と「陸の氷」を区別することが大事です(このほか、海水そのものが温まって膨張する効果も大きいとされています)。
凍ると太ることの、困った側面
体積が増えるという性質は、時に大きな力になります。水が凍るときに押し広げる力は、非常に強いのです。
- 水道管が破裂する ― 中の水が凍って体積が増え、管を内側から壊します。寒い日に水を少し流し続けるのは、凍らせないためです
- 岩が割れる ― 岩のすきまに入った水が凍ってはとけ、を繰り返すうちに岩は砕けていきます。山の風化や落石の大きな原因です
- 道路がでこぼこになる ― 舗装の下の水が凍って持ち上げ、とけると沈む。寒い地域の道路の傷みは、これが一因です
- 冷凍した食品の食感が変わる ― 細胞の中で氷の結晶が育ち、細胞を内側から壊します。急速に凍らせると結晶が小さくなるので、傷みが減るとされています
また、氷に塩をかけると温度が下がる話も、同じ水の性質から出ています。
台所で確かめられること
- 小さめの容器(プラスチックのカップなど)に、水をふちギリギリまで入れる
- 水面の高さに油性ペンで印をつける
- 冷凍庫で一晩凍らせる
- 翌朝、氷の表面が印より高く盛り上がっています。ふくらんだ分です
- 次に、コップに水と氷を入れて水面に印をつけ、氷が全部溶けるまで置く。水面はほぼ変わりません
前半で「凍ると体積が増える」ことが、後半で「浮いている氷が溶けても水面は変わらない」ことが、同時に確かめられます。ガラス瓶やふたの閉まる容器では絶対に行わないでください。割れることがあります。
まとめ
氷が水に浮くのは、水の分子が「く」の字に折れ曲がっていて、決まった向きにしか手をつなげないからです。きちんと並ぶとすきまだらけの骨組みになり、液体のときより軽くなります。整列すると損をする、という珍しい物質です。
分子がまっすぐな形だったら、
湖は底から凍っていたかもしれません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:水のふしぎを表す言葉
- 密度:同じ体積あたりの重さ。氷は約 0.917 g/cm³、水(4℃)は 1.000 g/cm³ です。
- 水素結合:本文の「手をつなぐ」の正体。水分子の水素が、別の分子の酸素に引き寄せられる結びつきです。
- 結晶:粒が規則正しく並んだ状態。氷も雪の結晶も、同じ骨組みからできています。
- 水の異常:ほかの物質と比べて説明のつきにくい水の性質の総称。氷が浮くこともそのひとつです。
- 凍結破砕:水が凍る力で岩が割れること。山の風化の主要な原因のひとつとされています。
高校式で確かめる:氷山の見えている部分は、何割か
「氷山の一角」という言葉があります。では、その一角は何割なのか。密度がわかっていれば、割り算1回で出ます。
沈んでいる割合 = 氷の密度 ÷ 液体の密度
| 氷の密度 | 0.917 g/cm³ |
| 水の密度 | 1.000 g/cm³ |
| 海水の密度 | 1.025 g/cm³ |
浮いているものは、自分の重さと同じだけの液体を押しのけたところで止まります。だから沈む割合は、2つの密度の比だけで決まります。大きさも形も関係ありません。角氷でも氷山でも、同じ割合です。
| 水に浮かべたとき、沈む割合 | 0.917 ÷ 1.000 = 0.917(91.7%) |
| 水面から出ている割合 | (1 − 0.917) × 100 = 8.3 % |
| 海水に浮かべたとき、沈む割合 | 0.917 ÷ 1.025 ≒ 0.895(89.5%) |
| 海では、出ている割合 | (1 − 0.895) × 100 ≒ 10.5 % |
見えているのは、およそ1割です。「氷山の一角」という言い回しは、比喩ではなくほぼ正確な数字だったことになります。
海水のほうがわずかに多く顔を出すのは、塩のぶん海水が重いからです。0.917 という数字ひとつで、ここまで出せます。
同じ数字を、こんどは逆から見ます。水が氷になると、体積はどれだけ増えるのか。
| 水 1 L が氷になったときの体積 | 1 ÷ 0.917 ≒ 1.09 L |
| 増える割合 | (1.09 − 1) × 100 = 9 % |
約9%ふくらみます。ここから、いくつかのことが説明できます。
- 飲み物を凍らせると容器が割れます。ふたを閉めたペットボトルは、逃げ場がないので破裂します
- 冬に水道管が破裂します。管の中の水が9%ふくらむ場所がなく、金属を押し破ります
- 岩が割れ、道路に穴があきます。すき間に入った水が凍り、押し広げます。これがくり返されて地形を変えます
「凍ると膨らむ」は、たった9%です。それでも金属の管を破ります。逃げ場がないと、わずかな体積変化でもこれだけの力になります。
水にはもうひとつ変わった性質があります。いちばん重くなるのは0℃ではなく、4℃です。
| 4℃の水の密度 | 1.000 g/cm³(最大) |
| 0℃の水の密度 | 約 0.9999 g/cm³ |
| 0℃の氷の密度 | 0.917 g/cm³ |
冷えた水は下へ沈みますが、4℃を過ぎると逆に軽くなるので、それ以上は沈みません。結果として、池は底に4℃の水がたまり、表面から凍っていきます。
もし氷が沈む物質だったら、水面で凍った氷が底へ落ち、池は底から順に凍りついていたはずです。0.917 という数字が、そこに生き物が越冬できるかどうかを決めています。
高校数字で見ると、どれくらい軽いのか
| 氷(0℃)の密度 | 約 0.917 g/cm³ |
| 水(4℃)の密度 | 1.000 g/cm³ |
| 凍ったときの体積の増え方 | 1 ÷ 0.917 ≒ 1.09 → 約 9% 増える |
| 真水に浮かぶ氷の、水面より上の割合 | (1 − 0.917) × 100 = 約 8% |
| 海水(約1.025)に浮かぶ場合 | (1 − 0.917 ÷ 1.025) × 100 ≒ 約 11% |
※ 温度や不純物によって変わります。代表的な目安です。
「氷山の一角」という言い方は、この計算から来ています。見えているのは全体のおよそ1割で、残りは水面下にあります。
高校高校+なぜ「向きが決まっている」ことが効くのか
水分子は約104.5度に折れ曲がっており、酸素側が負、水素側が正に帯電しています。1つの分子は水素2つで手を差し出し、酸素の電子対2組で手を受け取るので、合計4方向に結合できます。
この4本が、正四面体の頂点を向く配置でもっとも安定します。全員がこの向きを満たそうとすると、必然的に六角形のトンネルが空いた構造ができあがります。雪の結晶が六角形になるのも、この骨組みが表に出たものです。
比べてみると違いがはっきりします。多くの分子どうしの引力(ファンデルワールス力)は向きを選びません。だから固まるときは、球をできるだけ詰め込む形になり、密度が上がります。水は、結合に向きがあるせいで、詰め込みを犠牲にしているのです。
大学相図の傾きが、逆を向いている
物質の状態を圧力と温度で表した図(相図)で、水は特徴的な形をしています。固体と液体の境界線が、左に傾いているのです。ほとんどの物質では右に傾きます。
これは、圧力をかけると氷が溶けることを意味します。クラウジウス・クラペイロンの関係 dP/dT = ΔH / (T ΔV) において、融解での体積変化 ΔV が負になるためです。ふつうの物質では正なので、傾きの符号が逆になります。
ただし注意も必要です。「スケートで滑るのは圧力で氷が溶けるから」という説明が広く知られていますが、計算すると、スケート靴の圧力で下がる融点はごくわずかで、これだけでは説明できません(この点は氷に塩をかける記事でも触れています)。
さらに高い圧力では、私たちの知る氷とは別の構造の氷が現れます。番号で区別され、これまでに20種類近くが報告されています。そのなかには液体の水より重いものもあります。「氷は浮く」は、地上の条件に限った話なのです。
研究水は、いまも説明しきれていません
- 水の「異常」は、70以上あるとされています。4℃で密度が最大になること、比熱が大きいこと、表面張力が高いこと、圧力をかけると流れやすくなること。これらをひとつの理論でまとめて説明することは、まだできていません。もっとも身近な液体が、もっとも理解の難しい液体でもあります。
- 「水は2種類の液体が混ざったものかもしれない」という仮説があります。低い密度の状態と高い密度の状態があり、条件によって割合が変わる、という考え方です。これが正しければ、多くの異常がまとめて説明できると期待されています。ただし検証すべき温度域(およそマイナス90℃からマイナス40℃)では、水がすぐ凍ってしまい実験が極めて難しく、この領域は研究者に「誰も入れない土地」と呼ばれてきました。近年、極めて短い時間で測る手法によって支持する結果が報告されていますが、決着はしていません。
- 過冷却水がどこまで液体でいられるのかも、確定していません。純粋な水は、条件を整えるとマイナス38℃程度まで凍らずにいられることが知られています。しかし限界がどこにあり、そこで何が起きるのかは、上の議論と直結した未解決の問いです。
- 氷の構造の探索も続いています。高圧下や特殊な条件で新しい氷が今も見つかっており、報告される種類は増え続けています。「氷」と一口に言っても、いくつあるのかまだ確定していないのが現状です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・密度/状態変化/浮力 | 凍ると体積が増える、浮く理由、湖の話 |
| 高校 | 化学基礎・分子の形と極性/分子間力 | 「く」の字の形、水素結合、4方向の結合 |
| 高校+ | 化学・結晶構造/状態図 | すきまの多い骨組み、雪の六角形 |
| 大学 | 物理化学・相平衡 | 相図の傾き、クラウジウス・クラペイロン、高圧の氷 |
| 研究 | 液体の物理(未解決) | 水の異常の統一的説明、二状態の仮説、過冷却の限界 |
| ― | 地学・生物 | 凍結破砕、湖の越冬、海面上昇の誤解 |
- Atkins, P. & de Paula, J., Physical Chemistry(相図、水素結合、状態変化)。
- Petrenko, V. F. & Whitworth, R. W., Physics of Ice(氷の構造と物性の標準的な教科書)。
- Gallo, P. et al., Water: A Tale of Two Liquids, Chemical Reviews 116(13), 7463–7500, 2016(二状態の仮説をめぐる総説)。
- Kim, K. H. et al., Maxima in the thermodynamic response and correlation functions of deeply supercooled water, Science 358, 1589–1593, 2017(過冷却水の測定)。
- IPCC 第6次評価報告書(海面上昇の要因に関する評価)。
※ 密度などの数値は、温度や不純物によって変わります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安であり、条件によって幅があります。観察の際は、密閉容器やガラス容器で水を凍らせないでください。破損のおそれがあります。